パルコ劇場 PARCO PRODUCE 2022 『凍える』

 シリアルキラーのラルフ(坂本昌行)の、犯行と逮捕、服役、ラルフに殺された少女ローナの母ナンシー(長野里美)の心痛と二十年に及ぶ苦しみ、ラルフを分析する精神科医アニータ(鈴木杏)のセッションと彼女自身の個人的苦悩を、薄刃のナイフで切り取って組み合わせ、きりっと鮮やかに立ち上げて、難問を演劇に仕立てていく。「悪とは何か?」「罪とは何か?」

 作家はそこに新しい視点(疾病による犯罪)を持ち込む。被虐待児の脳は縮んでしまい、他人とのつながりがわからなくなる。そこで起こす犯罪は、症状だというんだよ。ラルフの心は凍りついていて、記憶もあいまいだ。凍っているのは、ナンシーもおんなじ。

 終幕のラルフの行為はいろいろ解釈できるけど、私は、凍りついた心が融け始め、ついに自分と出くわしたのだと思う。それとも、見つけ出した子どもの自分自身を、シリアルキラーのラルフが追いつめたのか。この人きっと心が割れていたんだよね。ナンシーは心の傷を自分の手で癒してゆく。そして、「傷と共に生きる」ことを選択する。3人しか出ていないのに、ずいぶんたくさんの人物にあったような気がするよー。最初に登場したアニータが、集中、テンション共に最高度で、えっいきなりテンション高いのたいへんだねーとおもうが、大丈夫だった。筆の穂先の「腰」の部分までしっかり墨を含ませていて、長野里美は筆の「腹」まで、坂本昌行は「腹」と「喉」の間くらいの細さ。鈴木のテンションにひっぱられて、みんなよくなっているといえるけど、バランスが悪い。たぶん役の腑に落ち方が関係してると思う。シリアルキラーって、なかなか同期しづらいもんね。しかし、ここまでいい芝居になってるんだから、もう少し何とかしてほしい。それって、演出の仕事じゃなかろうか。