東京芸術劇場シアターイースト 東京芸術祭2022 芸劇オータムコレクション ワールド・ベスト・プレイ・ビューイング 『最後のキャラバンサライ(オデュッセイア)』

 (うっ)

 心に鋭い一撃を受けてつんのめる。

 「あなたに愛なんてわからない」

 難民申請を却下されたアリが強制送還を拒んで激しく抵抗する。と、混乱の中で、自分と弁護士の電話番号を渡そうと、必死に彼を呼ぶ通訳がそれを阻まれ、当局のガードに向かって大声で叫ぶのだ。そうだよ。そんなやつに。愛の何がわかる。しかし、その「そんなやつ」にびびる。そんなやつは、「私」だ。

 開巻一番、「残酷な河」はうねり、もちあがり、沈む美しいグレーの布で表現される。もー、まさに激流。暴れる布。岸と岸に渡されたロープを伝ってバランスを取り、滑車(たぶん)でつながれたバスケットに乗り込んだ人々を対岸へ渡す。揺れるバスケット、不規則に大きく盛り上がるこぶのような恐ろしい川、船頭が落ちる。渡す方も渡される方も必死だが、命がけで逃げている人たちであることがこのシーンで一瞬のうちに解り、一緒に渡った気持ちになる。

 「難民」「奴隷労働」「人身売買」「売春」、支配による収奪が、「奪われる人」の目から描かれる。ジョージアからトルコへ行こうとするアーニャについてゆく、ちょっとぼーっとした青年が、アーニャの代わりに鉱山に入っちゃうところが、つらかった。ていうか、つらくないシーンは、ない。でも日本ではアジアから来た人々を欧米よりも激しく見下し、(見下しては駄目だという社会的コンセンサスさえ、薄れようとしている)勉強しに来た人を、鎖でつないだりしているんだよ。全てが「つくりもの」で表わされ、演劇の可能性と、自分の社会的視野が、水滴の落ちた水面のように、同心円状に広がるのを感じる。あの無表情のガードの(権力の)、リアクションないのが演技的にちょっと気になった。素晴らしい演劇だったよ。