東京芸術劇場シアターイースト 東京芸術祭2022 芸劇オータムセレクション ワールド・ベスト・プレイ・ビューイング 『モリエール』

 1978年、39歳のアリアーヌ・ムヌーシュキンが撮った映画。気鋭の作家さー。モリエールの逸話では、どこかで聞いた、瀕死のモリエールが「劇場で働く人のために、今日も舞台に上がらなくては」っていった、という話が琴線に触れるけど、この映画にはない。代わりに、ムヌーシュキンの省察があちこちに感じられる。特に、若いころから関係があった女優マドレーヌ・ベジャール(ジョセフィーヌ・ドレンヌ)の病床で、戯曲の方向性と台詞を練るシーンがいい。この女の人が、モリエール(フィリップ・コーベール)の作劇に大きく関与していたと暗示してる。チームっぽい。幼い子供のシーンが自然に撮れていて、母の死の直後、おじいさん(ジャン・ダステ)が芝居を観に連れて行ってくれるところも印象深い。心の欠落を慰めてくれる存在としての芝居が、しっかり映画の土台になっている。

 モリエール(1622-1673)、裕福な家に生まれ、弁護士の資格を取ったが芝居の道に進む。劇団を結成したものの上手くいかず10年を越える地方巡業を経験する。パリにもどりルイ14世の御前で演じるなど、名声を得た。

 昨日『最後のキャラバンサライ』を見たせいか、4時間以上の映画が布の河みたいに見えた。子供時代、母の死、女優との愛や巡業、芝居の挫折と成功、そして死。映画のあちこちに、布を丸く縫って、きゅーっと絞ったような流れのポイントがある。モブシーンも俯瞰もよく撮れていて(但しモブシーンは人のいない所が映りそうではらはらした)、布を絞ったとこもいい感じに効いてんだけど、後半になるにつれ「しぼ」が小さいなと思っちゃう。なんかちょっと、王様とか、『タルチュフ』とか、散漫なの。スガナレルの箒の劇中劇と、モリエールを抱え皆でもどかしく階段を上がる死のシーンが演劇としていいと思いました。