恵比寿ガーデンシネマ 『土を喰らう十二ヵ月』

 まず、「一年間かけている」ってことが映画に出てる。高速撮影がちょっと多いけど、いやじゃない。土に埋けた(?)里芋を出す、雪の下からほうれん草を採るところもしっかりリアルで、真っ黒の土をつけた芋を、一つ一つ流しで洗うとか、ほうれん草の根が白くなるまで丁寧に指でこすりながら水(つめたく澄んでいる)で流す、ゆがく、食膳に載せ、食べるまでが一息だ。野菜が熱せられて皿に盛られ、凍えた身体を通ってゆく感じが、観ている方にも伝わってくる。そしてシンプルな料理が、「現代日本の最高の贅沢」感を醸し出してるのだった。あのさ、いいお粥を炊こうと思ったら、「水から30分」とかでなく、直に鍋を見て、お粥の調子を見極めながらが一番たしかじゃない?身体に実感を持つっていうか。それがきちんと表現されている。ここまで、原作に勝ちそうな勢いである。

 よくないのは画面を「持たせる」ために、大きな犬を家に上げて飼っているとこだね。水上勉の前髪ぱらりに匹敵するウィークポイントだ。

 それから、会話の調子に、映画全部に一貫する緊密さが足りない。ツトム(沢田研二)と真知子(松たか子)の最後のシーンが、ぼんやりしたトーンに見えてしまう。

 一番引っかかるのは、食べ物(生きること)と対峙し、日日「たったいま」を生き、「死ぬまで生きる」、執着と放念について、脚本がもひとつありふれているところだ。ぜったいもう一歩深くいけるのに、すべてを「映画」に任してしまってる。ここ、もっと執念深く考えていたらもう、名画になったのにさ!

 沢田研二の表情筋が、ブラシでささっと払ったように浮き出している。大工の火野正平や、写真屋瀧川鯉八)とのやりとりのとこ、もすこし笑わせていいのでは?