ユーロスペース 『天上の花』

 破綻なくきちっとできてる。歯車がぴったりとかみ合い、するすると物語は進み、惹きこまれる。

 詩人三好達治東出昌大)は、16年思い続けた、師萩原朔太郎の妹慶子(入山法子)と結婚するため、妻子と離別し、海辺の僻村に疎開する。しかし、三好の思う慶子と、実際の慶子には隔たりがあり、その齟齬に三好は耐えられない。ことあるごとに彼は慶子を殴り、慶子を縛りつけ、手元に置こうとする。「愛している」と言って。

 そもそも、三好の思い、慶子へのこころって、愛なの?これさ、愛というより、「一念」って感じする。一念を愛と言いなすとこがもう、強者の理屈じゃない?強い者の理屈に対して慶子が異議申し立てしてもさ、周りの人が我慢しなさいというとこが、食虫植物に捕まった小さな虫の運命のようにひどい。無力感に目まいした。日本の映画には、腕力で異議申し立てするかんしゃく持ちの女が現れない。かんしゃく持ちの女は、いまだにジョン・ウェインが猫の子みたいに襟上掴んでひきずりまわすモーリーン・オハラのような扱いを受ける。この映画でもそうだ。つまらん。

 東出昌大入山法子有森也実、いずれも集中した演技で見どころが山ほどある。入山が食べ物を口に入れる時の表情は、背景にぽわんとした光の環がいくつも浮かんで見えるようだ。けど、最初のシーンの振り返るとこ、もっときれいに撮れなかったの?何度も撮り直すより、お金をかけ、照明を工夫して、一回撮ったほうがよかったよ。脚本が東出の芝居を邪魔している。「慶子さんとの縁談が破談になってしまう」この台詞要らない。説明。B級。どんなつらい経験も、役者にとっては皆大切なものなのだと、声割れの直った東出を見て思った。詩の朗読をする東出は拙い。詩の姿が見えてない。歯車は回り、運命を象るが、その歯車は古く、錆びているねぇ。