シアタートラム イキウメ『人魂を届けに』

 「人魂」みたいな芝居よねー。深山幽谷、どこだか知れない森の奥に、山鳥さん(篠井英介)は棲んでいる。「おかあさん」と呼ばれる彼女の家の中には、男たちが、点々と胎児のように眠りながら「落ちている」。そこへ、死刑を与えられて死んだはずの男の「魂」を携えて、刑務官八雲(安井順平)が、杖を突き、なぜかはだしで訪ねてくるのだ。あのー、山鳥さんの家が実は「魂の奥処」であり、山鳥さんこそグレートマザーである、とユングっぽくつるつる読み解いたってなんもならん。そんなのただ人魂の片端を触ったに過ぎない。作家はおとこたちがここで癒され、虜となって留め置かれ、出ていけたものは反社会的行為をする、という分かりにくさを賦与しているけど、それもそんなにびっくりしない。イキウメの芝居は、いっつもわけが「わかりすぎる」のに、ここでは「わからないこと」が刻々と進行している、山鳥さんたちの動向を探る公安(盛隆二)とか、どういう筋書きなのか読めない、そこが面白かった。煮える人魂みたいに、湯気を眺めているばっかりで、それをどうするのか皆目見当がつかないところがとてもいいよ。だけどさ、空間が微妙な反転を繰り返し、役柄を変えてゆくところもっとぎゅっと首根っこつかまないと、幕切れが映えない。そして見当つかない時間が長すぎる。「キャッチャー」についての具体的な言及がないので、観客との同意が形成されない。ああ、ライ麦畑のね、と思う人しかわからないじゃないのー。もしか、「同意が形成されないのが怖い」とかを目指すのなら、そのようにやってね。

 藤原季節の、蝶を追う台詞は、全体から見ると調子がすごーく落ちる。蝶を追いかける物狂いの人になってない。蝶ってたましいじゃないの?

 葵(浜田信也)の「妻」がさりげなくて怖い。しかし、もっと早く登場してほしかった。この反転シーンが多いほうがいい。篠井英介素敵だけど予測ついちゃうね。