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地人会新社第6回公演 『豚小屋』

  母が心を込めて作ってくれた真っ赤なスリッパと、忠誠を誓わせる鎌と槌の赤い小旗、その間で引き裂かれてしまった脱走兵パーヴェル(北村有起哉)が、豚小屋に41年間隠れ潜む物語。ではないんだな。だって原題が、「豚小屋」じゃないんだもん。「A PLACE WITH THE PIGS」なのだった。

 芝居は、すでに10年間小屋に隠れているパーヴェルが、村の記念集会に出て演説し、脱走の罪の許しを乞おうとしているところから始まる。そこはあばら屋にも見える豚小屋。隙間だらけの羽目板の壁の、上手側から光線がさしこみ、下手の壁、舞台奥の入り口、ゆがんだおんぼろの柱に細くあたる。床一面に落ちる藁。上手側と下手側に、家畜がこいが一つずつ。許される見込みの薄さに、パーヴェルは尻込みし、また豚とともに寝起きする辛く無聊な日々に戻っていく。信仰篤い妻プラスコーヴィア(田畑智子)は夫の隠れ家生活を助け、パーヴェルの愚痴や癇癪を辛抱しながら日常の暮らしを回している。

 始終鳴いて臭う豚への苛立ち、豚のように暮らす生活ともいえない生活に煮立つ絶望、パーヴェルの居場所は地獄だ、プラスコーヴィアは生きている人は地獄に行けないというけれど。脱走は、国家に叛いた罪よりも重く苦しいものに見えてくる。動かし難いすぐに来る死。原罪のような。パーヴェルはそれを背負い、自らに命令することで彼の居場所は変わる。「内なる神」が現れる。終幕、背を向けてぼんやりと座るパーヴェルとプラスコーヴィアは、まるでゴドーを待つウラジーミルとエストラゴンのようだった。プラスコーヴィア、もっと実際的に「はいはい」「そうはいってもさー」と思ってていいのじゃないか。幅が欲しいです。カーテンコールで手をつないで消えて行ったとき、泣きそうになりました。