Bunkamuraザ・ミュージアム 『マリメッコ展 デザイン、ファブリック、ライフスタイル』

 フィンランド。人と人とが、3メートルくらいいつも離れて歩いてる。人が少ないのだ。おしゃれなちっちゃいブローチとかつけてても、だあれも気づかないよ。お互い離れてるもん。この距離が、マリメッコを産んだと思ってた。ハーイ、私はここよ。フレンドリーな、明るい呼びかけ。

 会場に入ると、フィンランドの映像、赤いしなやかな茎に青々と茂る葉っぱ、湖、湖面にちらつく光、テンペリアウキオ教会、港、人々、子どもたち。

 そして、大きな芥子の花をモチーフにした「ウニッコ」がまず目に入る。マリメッコで布を買うと、たいていウニッコのプリントされた袋に入れてくれる。ブランドを代表する、明るく、強い柄だ。重ねられた赤、ピンクの真ん中に、目のような花の黒い芯がある。

 そのとなりに「イソトキヴェット」《大きな石》1959年。白地に、ハサミでラフに切り取ったようなごつごつした大きな黒い円。円の一つの丈で少し短いスカートくらいにはなりそう。模様が大きいということが胸を打つ。というか胸を撃ち抜かれたよ。寒く縮こまっていた体を広げてくれるような大胆な柄なのだ。自分で見積もる自分のキャパ、自分の心の大きさを、はるかに超えてくる。これ、たぶん、フェミニズムとかを抜きにして語れないんじゃないだろうか。自分を安く見積もるなと言われているようだ。わたしのこころはこんなに大きい。

(私はここよ)

 かすかな叫びのようなものが、ここにはあって、そしてそれはあくまでもマリメッコ(マリちゃんの服)、マリの声なのだ。そう思って会場を見渡すと、そこは女の人が心から出す朗らかな声であふれているように感じられる。

 かもめの姿はなくても、かもめの揺られる波や、かもめの翼を思わせる白黒の大きな波模様の「ロッキ」、胸に白夜の太陽のようなレモン色の丸と、それを囲む小さな黒地に白の水玉がシックなドレス、「キヴィ」、日本で大人気の小花のブーケ柄「プケッティ」。

 ともすれば大事にされず、隠してしまいがちなもの、しっかり生きてきた女性の、有名無名を問わない偉(おお)きさみたいなものが、ここでなら表現できる気がした。それを個性というのだろうか。

 マリメッコの生地は、平台型の回転プリンターでプリントされ、蒸して染料を定着し、熱湯で洗浄される。工程をチェックする人やショップの人がビデオに映り、皆本当にさりげなくマリメッコを着こなしていた。とくに、緑のキノコシャツ着ていた人、何でもなさそうに、気負いなく着てたなあ。

 老年になっても、マリメッコを着ようと思う気概こそ、「マリ」なんだなあと思って会場を後にしたのだった。