世田谷パブリックシアター PARCO PRODUCE 『BENT ベント』

 手に汗握る。スリラーでも冒険活劇でもないのに、カーテンコールで拍手する私の掌は、湿って音が出ないのだった。

 ナチスが政権を握ったベルリン、刑法で同性愛は反自然的なわいせつ行為とみなされ、同性愛者は強制収容所に送られるようになる。荒れた生活が引き金となり、ゲイであることが露見したマックス(佐々木蔵之介)は、同棲相手ルディ(中島歩)を連れ、逃亡を続ける。しかし、ついに収容所に送られるマックス。収容所で最下級とされる同性愛者ではなく、ユダヤ人になりおおせた彼はそこで、ゲイのしるしのピンクのワッペンを胸に付けたホルスト北村有起哉)と出会う。

 マックスは収容所に入れられてしまうが、マックスの心もまた、ゲイであることとその過去の傷に囚われて狭い所に閉じ込められている。彼は世界と、「取引」を続ける。取引には条件が付きものだ。条件の付かない「愛」を彼はおそれる。『ベント』は、虐げられてきたゲイの青年が、愛と尊厳を取り戻す物語なのだ。

 夏の暑い日、上半身裸になったホルストとマックスが、正面を向いたまま直立不動で立ち、互いの顔を見ることなく、触れあうこともなく、会話で愛しあうセックス。鋭く削がれた裸体が鎧のようで、彼らは肉体の表面を愛しあったのだという風に見える。しかし、身を切られるような寒い日、二人がもう一度会話で愛しあうと、それはとてもソフトで、心の中の柔らかい部分をさらけ出しあっているような感じがした。

 緊迫したラストシーンすばらしい。佐々木蔵之介別の人のよう。ソフトな、傷つきやすい誰か。収容所で誰かに「ムスリム」ということは、ものすごく重い意味があったように思う。ホルストもっと気を悪くしてもいいのでは。中島歩長足の進歩。発声気を付けて。