練馬文化センター小ホール イッセー尾形の妄ソー劇場

 舞台下手に衣装ラック、小机に水のペットボトルが見える。その下にかつらがいくつか。中央に二重、両脇に一段だけ階段がついている。奥に信号機がうっすら傾いで立ち、開演前の地明かりは青い。イッセー尾形による会場内諸注意、あんまりおもしろくない。「ふー真面目に読んだぞー」って、予定調和。

 ふわっと舞台が明るくなり、魔法のように、知らない男が彼の「いつもの(と思ってしまう)佇まいで」、真ん中に立っている。「問題を整理しましょうよ」と突然言う。すくめた首、肩が上がっているから、短い感じのする両腕、物のいいオレンジのセーターを着込み、ベージュのチノパンに真っ白のスニーカー。長髪なのに73分け。この人いい車に乗っている。その車で信号機の代わりに誘導灯を振っている人を轢きかけた。言い合いになり、奥さんにはばしっと云ってやるというくせに、何だか不利になってばっかりだ。かと思えばがにまたの85歳、生きがいに防災団結成をあてがわれたおじいさん。それと知りつつサイレンに高揚する。次は女学生、セーラー服じゃない所が新しいが、かつらはおさげ。メガネ屋のおじさんと話しているときと友達に話すとき、身体が違う。おじさんには少し肩をすぼめているが、友達に話す姿は胸が開く。細かな身体の違いで人を演じ分けている。コロナが話に出て来てちゃんとアップデートされているが、女中さんが「お茶の水博士じゃないのよ」というところ、こないだスタバにいた女の子はアトム自体知らなかったよ。この後の立体紙芝居はどういう趣向だろ。いちいちお面をつけるので表情はわからないし、紙芝居屋のおじさんは大きなジャケットを着ているから身体の繊細な味付けもわからない。声も一色。360°人の気配があって、出てくる人の身体のかたまり方、ほぐれ方が凄いのに、この紙芝居は…。イッセー尾形、得意を封じて、どこへ行くのか。