彩の国さいたま芸術劇場 『蜷の綿 ―Nina's Cotton―』

 ニーナ(たち)の語る台詞。

 「その世界の中には、あなたとわたししかいない」

 きびしく、かっこいい。一人の人間の心の中の分割された一つ一つをニーナ(たち)と男(=壮年、内田健司)で象徴し、ニナガワの心、心象、出来事をそれぞれ描き、結び合わせる。能――夢幻能――の形を取って、橋懸りに顕った一人の男を照射する。

 上から目線でいうと、おおむね、面白い。

 でもさー。細かい所では鼓、笛の音がやけに軽いという所から、羞恥心の置き所という所から、立身出世という所から、違和感がしゅわしゅわと立ちのぼってくる。

 この作品は、演劇を「する」ある男への、頌歌であり墓碑銘であるようにかんじるが、あの、演劇が成功してゆくくだりが、どうしても、(藤田の筆をもってしても)、「演劇ドラゴンボール」のように感じられ、すーと醒める。(拡大に次ぐ拡大。だがそれがいったいなんでしょう)

 われぼめとも見えるセリフの数々を、蜷川ならどんな風に演出しただろうか。

 一方で、男の生き方、在り方までも規定した心の疵が、大きく、深く、軛のようにその首にかかっているのがありありと見え、迫真とリアリティに息苦しくなる。そして、「演劇」を「する」ことが、現在の自分を、追いつめるように縁取り、抉り出し、「その先」へと導く灯しなのだということが苦しみの中で明らかになる。

 内田健司、走る練習をして、もっと早く走ってほしかった。「壮年」の彼の言葉は、息の吐き方(蜷の綿!)がまるで蜷川と同じである。って知らないけど。竪山隼太、台詞がソフトな雪みたい、エリュアール読んでないのがばれてます。

 

 

ニーナ:石井菖子 石川佳代 大串三和子 小渕光世 葛西弘 神尾冨美子 上村正子 北澤正章 小林允子 佐藤禮子 重本惠津子 田内一子 高橋清 滝沢多江 竹居正武 谷川美枝 田村律子 ちの弘子 都村敏子 遠山陽一 徳納敬子 中村絹江 西尾嘉十 林田惠子 百元夏繪 宮田道代 森下竜一 渡邉杏奴