下北沢駅前劇場 TRASHMASTERS vol.36『出鱈目』

 中津留章仁、劇作家、49歳。えええー?芝居は手練れらしく4層ほどの絵巻物、又は4層の立体紙芝居のように作られ、進めば進むほど葛藤が深まるように設計されてはいる。とある地方都市、x市の市長広末孝雄(カゴシマジロー)は、沈みゆく市を活性化するため、芸術祭を発案する。県や国から交付金を受け、自分の支持母体であるヨクサン重工、息子洋一郎(長谷川景)に任せている広末商事などから協賛金を出して貰う。しかし、彼が捕まえたと思った「芸術」は、リボンを巻いた子猫などではなく、引き綱を千切って暴れる龍だった。軍需産業のヨクサンを批判する画の1位受賞を、撤回するべきかどうか、表現の自由、思想を巡り、市長の苦衷は続く。平和を希求する、戦争をなくすという思想が退潮しつつある苦悩も見て取れる。っていう話なんだけど、画家滝内龍太郎(倉貫匡弘)と同じく、中津留は、「稚拙」とかを、衝迫力の前では問題にしないのです。一層目の、全体の背景(カキワリ)になる冒頭部分が、めっちゃまずい。市長さんの「つまらん思い付きです」って見せたいのか。度が過ぎる。市長の妻すみれ(藤堂海)にリアリティない。息子が「とうさん」っていったとき、吃驚した。息子に見えないもん。出捌けも乱暴、繊細さがない。お友達以外の人にたくさん芝居観てほしかったら、この一層目のリアリティ(設定と人物)をデリケートにやってほしい。小役人の梢(石井麗子、芝居中、失敗しても反省しないで)が意見を述べだす2層目、芸術家が本性を表わす3層目、いろいろな思惑と混乱の中で自分を広末が見つめ直す4層目と、芝居はこちらを巻き込む力を持っているのに。あと、女の人の扱いが粗い、どうして木嶋(安藤瞳)は市長に惚れないの。政治家が活躍しろっていったからって、女の人はだあれも納得してないよ。