劇団俳優座 No.343 『火の殉難』

 あれっ、高橋是清アメリカで「奴(やっこ)に売られた」という話は?高橋が幼時、馬に踏まれそうになった「強運」の話は?

 どっちも影も形もなくて、芝居は金融と戦争、そしてテロについて詳しく物語っていく。

 うーん。よくわからん。古川健は司馬遼太郎(後半の)が好きらしいけど、司馬遼太郎だって、芝居を書いたことはあったよね。劇団の演出部の人が、つきっきりで、「それは芝居になりますまい」とか意見をいったってどっかで読んだ。古川健は、その「芝居にならない」場所を芝居にしようとしてるのかな?劇的な場面にしようと思えばいくらでもできるはずなのに、テロルを起こす側は、「待っている」。そして高橋是清(河野正明)邸では一族が夜のお茶を飲み、新聞記者(渡辺聡)と歓談している。ここがなー。あんまりドキドキしなかった。スリリングでないよ。

 しかし、中村中尉(藤田一真)と中田少尉(馬場太史)の、戦前の軍人の身ごなしが手の切れるようにシャープで、久々に軍人役を見て「怖い」と思った。そのしぐさの中に幾分か自分たちへの陶酔すら感じられる。出色。

 「芝居にならない」「退屈」と、この二つを芝居の後は強く思っちゃったんだけど、果たして退屈が悪いことなのかどうか。高橋是清には「金融」がわかり、昭和維新の人たちにはわからない。「金」という方向からいろんなものを観るというのは「芝居になるかならないか」「退屈かそうでないか」で事態を観がちな自分にとって新しかった。河野正明、温顔で、かわいくもあり、この役に合ってる。でも厳しいとこもあっていい。アフタートークで、映写が見えにくいと言われ演出家が素直に「すみません」と謝っており、ちょっと感じ入った。俳優座も名簿が混合でないけど、このまま貫くの?