CINE QUINTO 『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』

 シェイン・マガウアンはまだ60歳なのに、よれよれの折れそうにかよわい老人に見え、年来のポーグズファンの私はショックの余り大風に吹き飛ばされたような気持になる。シェイン、こんなになっちゃって。でもさ、この「吹き飛ばされたような感じ」は、シェインにすごく近い。暴力的な「知」っていうか、剛直なインテリジェンスっていうか、力の強い内面と、しょっちゅうさんざんな目に遭う繊弱な外面。50年代のアイルランド(馬で水を汲みに行き、子供も酒やたばこをやる)も、決してシェインにぴったりだったとは思えない。常に居場所がない。パディ(アイルランド野郎)と呼ばれ、内面と外面のバランスは悪く、ひとを吹き飛ばしたり吹き飛ばされたりしながら前に進む。(あのー、「Hell’s Ditch」って曲があるんだけど、その語りと歌の真ん中くらいのボーカルを彼はきっちり歌いこなしてるんだよね。語の響きの把握が完璧。俳優にだって難しい。それは彼の剛い知性の産物だと思う)映画の中に出てくる曲も名曲揃いで、「酔っ払いでどうしようもないシェイン・マガウアン」という外面までが、彼の歌の中に流れ込み、炉に溶かされて輝く。曲ができた当座は背が低かったのに、実はうずくまっていた大男で、立ちあがってみんなが知る、って感じ。90年代、知り合いはライヴの最中に腰かけて休むシェインを目撃したって。やっぱさー、ポーグズの人たちにインタビューしないとだめだね。ポーグズって演奏巧いでしょ?切なかったと思うよね。あと、邦題ひどい。

 映画が始まるといきなり原初のアイルランドにひゅーっと放り込まれたようだった。乱暴で、秀逸。しかし、シェイン・マガウアンが酒を飲み、酒に飲まれるその訳にもっと肉薄するべきだ。なんかつらい。なんかちょっと、哀しく可笑しい。ほんとに、観終わってどんな気持ちになればいいか解らなかった。無言で帰りました。