東京芸術劇場 『表に出ろぃっ!』English version  ”One Green Bottle"

 「テレビを体に埋め込まれた部屋」、配線色のゴールドとシルバーとコッパーがだんだらに、揚幕みたいにすべてを染め分ける。

 開演10分、イヤホンガイドを外す。なぜなら、目の前の芝居とイヤホンの中、二重に芝居が進行し、ニュアンスが複雑になりすぎて追いきれないし、何より見ている芝居が面白いからだ。これ、どっちとも聞ける人がいれば、それはそれで楽しいと思う。でも英語駄目な人がイヤホンガイド取ったって、ぜんぜん大丈夫だ。

 まず父(ボー、名前のついているところが西洋風だなと思った=キャサリン・ハンター)が古典芸能のレジェンド的存在で遊園地に行きたがっていること、母(ブー=野田秀樹)がアイドルのコンサートに行きたくて熱くなっていること、娘(ピクル=グリン・プリチャード)は大事な友人との待ち合わせがあること、これだけをおさえていれば、あとは芝居が面白い所に連れて行ってくれ、思わずつりこまれることの連続である。特に、父が遊園地で見せる変化や娘がカルトを語り始める時に感じる空間の広がり方などがよかった。

 現代のルータースマホなしではどうにもならない社会や、孤立した核家族の孤立した成員を語る芝居だと、きれいにまとめることができる。クイズのdeathのくだりでためらいがないのは、意味がつきすぎちゃうからかな。ドライな会話?野田秀樹は実は、シンプルで素直な人なのだなと感じる。ガードを下げ、自分を曝し、相手の繰り出すパンチを待っている。ってところにパンチを出すのも気が引けるけど、話も作者の動機、フラストレーションも単純で、深さが足りない。家族それぞれの孤独やそれぞれへの怒りの切っ先を鈍く感じた。なにより、渇き、そして「水」というコントラストが、もっと鮮やかだったらよかったと思う。