中国国家話劇院 『リチャード三世  理査三世 』

 暗い舞台に真紅の扁額が置かれ、「古代中国の文字のような英語」でRichardと書いてある。筆字だ。「えー?古代中国文字でいいじゃん」と思うけれど、エキゾチシズムでは終わらないという演出の意志なのだろう。上手にドラムスのようにセットされた赤い胴のふくらんだ太鼓が大小5つ、銅鑼、小さな木魚が5つ、鐃鈸が見える。この組み立ても古代文字風の英語に似てる。

 さて、有名な最初の台詞をエドワード四世(田征)が語って、『リチャード三世』は幕を開ける。魔女(佘南南、王顥樺、張鑫)が現れ、お告げをリチャード(張皓越)に与える。リチャードは凛々しくすっきりした貴公子だが、悪心が兆すと、その背は曲がり、右足の踵は浮き、指は捩れる。体の中に棲む別人を示す。(さいごひきがえるみたいになってほしかったなあ。)リチャードに夫を殺されたアン(張鑫)の登場。京劇の声が繊細に、震える糸みたいに、哀しみと憎しみを紡ぎだす。途中から「話劇」のようになり、そしてまた京劇に戻る。ごく自然で違和感ない。

 この芝居のバッキンガム公(杜松岩)がとてもよく、リチャードの受け皿に見える。双子の悪事のようなのだ。逆に弱いのはマーガレット(佘南南)と魔女である。マーガレットが呪う時、低いノイズが聴こえるのが、現代を示しているのかもしれないが、ちょっと垢抜けない。最後の、地霊のうめき声に聴こえる、というすてきなシーンが効かなくなる。

 幕に赤い筋がつき、次第に地上が血まみれに見えてくる。放り出された赤い布包みから、ふきあげる血飛沫を幻視する。この赤がリチャードの手袋を生み出す。玉座にかかる赤い手、リチャードは肩を波打たせ、血の梯子をかけて天に手を伸ばすのである。

 

 

 

 

 僭主リチャードに拍手する観客が、なんか、ほんとーに恥ずかしかった。アフタートークが長すぎる。30分の予定が1時間を超える、これもうシンポジウムでしょ。俳優さんは疲れているし、体も冷えてしまう、次の日も公演がある、これからは時間超過しないようお気を付け下さいって思いました。