パルコ劇場『ロスト・イン・ヨンカーズ』

強さ。生きるための強さって、いったいどのくらい必要なのだろう。めそめそしていると、「そんなことで世の中渡っていけると思うなよ」と誰かが言う、あれって、どの位が適正量なのか。

 『ロスト・イン・ヨンカーズ』は、そんな強さに取りつかれた祖母とその一家の物語だ。適正量が、ぜんぜんわからなくなっている話とも言える。

 ジェイ(浅利陽介)とアーティ(入江甚儀)の兄弟は、父エディ(小林隆)に連れられて、ニューヨーク近郊のヨンカーズで菓子店を経営する祖母(草笛光子)の家へやってきた。借金を清算するため南部へ出稼ぎに行くエディが、兄弟を祖母に預けに来たのである。きびしく、容赦がない祖母はそれを断ろうとするが、一緒に住むベラおばさん(中谷美紀)がとりなしてくれて、二人は祖母のもとで暮らすことになる。

 祖母のアパートは半地下の設定。上手に台所へ通じる扉、食器棚とテーブルとイスの食堂、舞台中央に肘掛け椅子、その背後の奥に祖母の部屋への扉、下手寄りにソファ、下手に玄関に通じる通路と洗面所のドアがある。ソファの後ろの窓から、地上に上がる階段が見えている。部屋には三つの違う壁紙が貼られている。この壁紙の感じが何かに似ていると思ったら、ベラの語りだった。全く違うどこにも強調のない話が、平面にきれいにのり付けされている。ベラと母親は不思議な関係にある。ベラは未熟であるために常に強くなれと母親に言われる対象であり、母親はそのおかげで「母」という立場を持ち続けられる。「母」って権力なのだ。その母に、もう一人の娘ガート(長野里美)は押しつぶされている。

 一方強くなれと言われた息子たちは、エディは全く寄り付かなくなり、母のおかげで強くなったと自認するルイ(松岡昌宏)はやくざ者になっている。「強くなれなかった」と思うエディにしても、「強くなった」と思い込むルイにしても、せんじ詰めれば強さは母の愛の代償である。求めて得られない愛の話だと考えると悲惨だが、最後にはかすかに救いがある。