シネクイント 『BLUE  ブルー』

 一けた台の体脂肪率、鋭い目つき、早いパンチ、ボクサーを演じる東出昌大は、『聖の青春』の頃より三割増しでよくなっていると思う。どうしても試合に勝てない友人瓜田(松山ケンイチ)のノートを見て、「睫が濡れてるだけの」泣くシーンなど、センスもアップしている。けど、三割増しじゃダメ。五割増しじゃないと。スキャンダルを背負っているからだ。冒頭の、携帯の画像を試合前の瓜田に見せるところ「なんですかね」、台詞っぽすぎる。周囲の雑音を一回身体に通してさりげなくいってほしかった。だってあのシーン二回あるじゃない。

 ボクシングを「する」若者たち、もてたいために「やる」楢崎(柄本時生)、好きだから「やる」瓜田、才能があるから「やる」小川(東出昌大)、瓜田の幼馴染で小川の恋人千佳(木村文乃)を挟んだ微妙な感情を掬い取りつつ、青年がボクシングに「なる」瞬間を描く。瞬間は人生に溶け、最終ラウンドはどこにも見えない。生きることが「ボクシング」と等価になるのだ。

 よかったのは瓜田の最初のノックダウン(背中を強く打つ)や落ち込む瓜田、そしてその背後から足音高く近づく千佳だ。優しい女の子だよね。

 生理中なのにセックスするというディテイルや楢崎の祖母の描写がまったくあか抜けない。日常性、さりげなさのセンスが欠けている。柄本時生の「勝ちたいんだよな」も真正面すぎ、恥ずかしかった。

 松山ケンイチの最後のシーン、本当に素晴らしいけれど、もひとつぴんとこない。身体性を、もっと息つめるようなひとつづりの映像で捉えることはできなかったのか。あそこ、私の脳内では、だんだん濃くなっていくブルーのグラデーションに見えているんだけど。