葛河思潮社 第四回公演 『背信』

 観ている間じゅう、「恋愛は、人生の花であります。」と、思う。

 ジェリー(田中哲司)とエマ(松雪泰子)は、別れようとしている。ジェリーにはジュ―ディスという医師の妻、エマには出版社社長の夫ロバート(長塚圭史)がある。アパートを借りて続いた七年の情事が終わるころ、ジェリーは、ロバートが自分たちの関係を知っているとエマに告げられる。二人は親友だ。混乱し、取り乱すジェリー。芝居は過去へ過去へと、七年を遡ってゆく。

 恋は、いつか必ず終わる。その終わりから、さかさまに眺める不思議な構成だ。登場人物が知らないことを、観客は知っている。

 囲いのように立つ壁と、そこに穿たれた一つの窓、三人の登場人物は、折に触れその窓から雲の浮かんだ青空を見る。

 人の手の届かない永遠のようなものだ。憧れのように見えることもある。倦みつかれた、空虚な広がりに見えることもある。男たちが着こむスーツの裏地の鮮やかな空色は、彼らが共同体(ホモソーシャル)のあかしとして身に着けるユニフォームのようだ。しかし、ある時は裏切られた者の屈辱の色に燃え立つ。時間は味方であり敵だ。有限の人生はかなしく、また救いでもある。全てが両義的で、不安定な飛び石だ。

 エマとの新しい生活など考えもしないジェリーに対して、エマの心は細かく揺れ動く。ネッドはいったい誰の子供だったのだろう。裏切りを知っていてだまっているという、もう一つ上の裏切りによって、ロバートはジェリーの優位に立ち、エマと共犯関係になる。裏切りあう人々。だれもしあわせにはならないが、その恋はこのようなものだった。「いかに退屈であろうとも、この外に花はない。」皆好演だった。