椿組花園神社野外劇30周年記念公演 『贋作幕末太陽傳』

 川島雄三は、死の予感から逃げてゆく佐平次を、幕末の品川宿から、1957年の品川まで駆け通しに駆けさせようともくろんでいた。それは、過去と現在を結び合わせ、そのどちらもひとしく過去としてフィルムに定着するという、大胆不敵なラストシーンになるはずだった。しかし周囲が大反対。残念だね。面白かっただろうに。

 『贋作幕末太陽傳』は、その川島雄三の「残念」を、新しく蘇らそうとするものだ。

 アイス最中を売る男(=映画館主、下元史朗)が舞台に上がる。若者(外波山流太)に一つ売る。背後のスクリーンにゴールデン街が映り、店の名前がアップになる。しかし、男たちは全く別のことを話している。一枚の長い白い布が、真ん中からうすい剃刀で裂かれ、そのおのおのに、違う景色が映し出されるところを思い浮かべた。映画の撮影が始まる。それはシナリオライター川野(恒松敦巳)にとっての悪夢だ。監督(宮島健)がアイデアを次々にかえてしまうからだ。川野は寂れた映画館を営む自分を夢想する。映画館主はシナリオライターを夢見、少年時代を回想する。まるですべてがばらばらの布に映っているみたいだが、最後は川島雄三の願ったようにまぜあわされる。分割されたスクリーンが一つになる。その周りに、現代の新宿の街があり(通り過ぎる人、信号の点滅、自転車のライト)、それもまた観客の目に映る過去、「映画」の一部となってゆく。回想される姉火夜(かや=松本紀保)と恋人秋吉(松角洋平)が飛びぬけてよく、飛行石(『天空の城ラピュタ』ね)みたいに全体を持ち上げている。同時に、なかなか持ち上がらない場所もはっきりする。撮影される映画と、悪夢の展開がありがちだ。団扇をつかう速さが、みな速い。もっとゆっくりだと思う。