DDD青山クロスシアター 『ぼくの友達』

 ふわっとした長めの髪にサングラス、黒いスーツに白いネクタイの青年トニー(辰巳雄大)。彼の正体はわからない。ただ感じよく笑いながら、邸宅の主イタリアン・マフィアのフランキー(田中健)に、「あなたの友達パーシー・ダンジェリーノ」の友達だといい続ける。トニーはぱっと見、「いかにもジャニーズ」の華奢な高校生のような若者だ。心なしか重心もちょっと不安定だし、頼りない。

 ところが芝居が進行し、身元がばれてくると、彼は一変する。ふらふらと地面に立っていたマジシャンの黒いステッキが、突如花束(それも生きている新鮮な花束)に変わるみたいなのだ。シェイクスピアのセリフ(蜷川に出たつもりでお願いします)やフランキーのまねがもう一つだし、ミントジュレップを飲んだ後の芝居が器用すぎるとか変身が遅いとかいろいろあるけれど、生き生きした爆発力がとても素晴らしい。炉に火の入った、エンジン全開の演技である。「地所」は「じしょ」、「一条の」は「ひとすじの」とも読むので気を付けて。落語だけでなく、本も読んでね。

 田中健のフランキーは、最初に椅子の上に出していた裸足がとてもチャーミングで、滑舌の甘さもそれで帳消しになるくらいかわいい「日曜日のおじさん」だった。日曜日にくつろいでいるおじさんが、思いがけなく恐ろしい人だという厚みがある。妻のシャロン香寿たつき)は、あけっぴろげで、体から信号(性的なフック)をたくさん発している。サインをもらう時のうれしがり方にとてもスケッチが効いていて、たくさんの人にサインしてきたのが生きているなあと思った。すてきな衣装がどれもよく似合っている。

 芝居はフランキーが資金を出すと言い出してから幾分失速。台本のせいもあるだろうけど集中が落ちる。ばたばたしている。もっと素早く終幕に持っていくことが肝要では。