東京芸術劇場プレイハウス 『奇跡の人』

 アン・バンクロフトパティ・デュークが、私の舞台『奇跡の人』鑑賞の、邪魔をするー。特にヘレンが触角のように手をあげてどこまでも歩くロングショットと、無愛想だったサリバン先生がー。

 高畑充希、尻上がりによくなるけれど、前半の、ハウ博士(原康義)との会話シーンは、自分を突き放して笑っちゃうシーンが多すぎるのじゃないかな。アニー・サリバンは、心のどこかに、ジミー(島田裕仁)の悲鳴が灼きついている。自分を突き放す余裕があるだろうか。このジミーの悲鳴の消え際が、こんなにリアルで重みをもっているのに。

 「ウォーター」、そこで感動するってわかっているのだが、やっぱり自分の中の『奇跡の人』にまた上書きして新たな驚きを受け取る。

 鈴木梨央のヘレンは、表情に理知の光が灯る瞬間が凄い。ちいさな太陽が体を横切っていくみたいだ。この表情、お父さん(アーサー・ケラー大尉=益岡徹)は、稽古の時見た?見ていれば、もっと緊った声が出ると思うよ。お母さん(ケィティ=江口のりこ)は演技プランがしっかりしていて素晴らしい。しかし、登場シーンは、芝居のまずい上品な女優さんに見える。

 長男ジェイムス(須賀健太)、エヴ伯母さん(増子倭文江)、きちんとこの芝居の骨を支え、ゆるみがない。

 ヘレンとサリバン先生の格闘シーンは、観客を意識せず、もっと緊密に、互いを見合って行われた方がいい。「ショー」になったらつまらない。

 劇場の中はすすり泣きでいっぱいだが、この芝居にはそれを受け止める度量と気品がある。もっといい芝居になると思う。それは高畑充希にかかっている。