シアターコクーン bunkamura30周年記念シアターコクーン・オンレパートリー2019『美しく青く』

あァオォキィー。青木保向井理)、顔ちっちゃくて背が高い、とてもハンサム。それがマイナスに働く。もっと顔よくみせて。

 赤堀雅秋の芝居では、皆俳優が「自分」に没入し、自分に重さをかけて、綱一本で体を支えなければ、全部がうまく働かない。向井理は自分を曝さないと、この芝居の芯になれないよ。妻直子(田中麗奈)に対して無視のような失礼な態度を取るところも、向井理自身が取る「自分」の失礼な態度でいい。曝す。この人は妻に深い所で怒っているんだから。その深い深いどうしようもない怒り、やり場のない怒りが定点にならないなら、ほかの人たちの芝居もキマってこない。

 直子はものすごくいい役、でも声の音域が狭いので、掃除機出すまで芝居の緊張がもたない。硬い声、柔らかい声、いろいろ使ってなにげない日常に怖さをもたらしてほしい。演技プランが大切。銀粉蝶の母も、あまり芝居せず、素を曝した方がいいと思う。

 被災地を題材にかりたせいか、今一つ赤堀の筆も渋っている。しかし、「猿を退治する」という名目であるはずの林田稔(森優作)の芝居が迫真、「未来(過去)の戦争」「現代、今ここで起きている戦争」が透けて見えた。林田と古谷美紀(横山由依)のくだりは彫が浅いと感じる。古谷勝(大東駿介)、がんばっているが、もう一息芝居に深さが必要。二重に芝居が進行するところ、やりにくそうだった。自分の言いたいことを肚から言ってください。

 海を見る青木保と妻直子、美しく青い空と海を背景に立つ二人は、いつその中に吸われていってもおかしくないほど死にちかい。刃物のような鋭い薄さで隔てられた生と死(流れるバッハのバイオリンの音に潜む狂気めいたもの)、そこで人々は笑い、泣き、酒を飲み、今日をやり過ごしてゆく。