劇団民藝 『白い花』

 渡辺正行が「無理」と「我慢」のコーラの一気飲みを広めてからというもの、それは平凡な光景になったのかもしれない。

 劇団民藝『白い花』では、主人公百合(中地美佐子)が、心の乱れを吹っ切るように、ラムネ三本を次々に一気飲みする。

 ラムネ三本?

 中地は舞台裏でスタッフが揺らしてしまったせいで、T字型の栓抜きを押し込むと同時に白く噴きあがってくるラムネに口をつけ、必死にラッパ飲みする。ほっそりした彼女は壜の底をまうえに上げて努力するがのみきれない。二本目、三本目としゅわしゅわ泡を盛り上げるラムネに口をつける。真面目だなー。そしてこの設定を考えた人間に怒りが湧いてくる。役者をなんだと思っている。たぶん、「その方が面白い気がして」。二次元おたくか。演出で修正が入っていないということは、演出家も脚本に則って、厳密にやっているんだな。真面目だなー。

 一幕、住職(千葉茂則)、おばさん(別府康子)、百合の法事での会話は、ゆるみもなくピシッと仕上がっている。こんなハイレベルな家庭劇久しぶり。飽きさせないし演出もテレビドラマを意識しつつ「見せる」。しかし、二幕になると様相が変わる。まず、芝居の基調がわからん。ベルイマンみたいな目線を合わせた姉妹(姉百合、妹彩=飯野遠)の対決シーンが欲しい気がするのに、芝居は妹を狭い田舎に引き戻し、またとじこめる。姉は考えていることがさっぱりわからず、最終的には「いい話」に着地する。おばさん(好演)が、結婚しろと迫るくせに、自身は特に幸せでもなかったってところ、とても大事だと思うけど、さらっと触れるだけ。たいへん民藝の観客層に適った芝居になってると思った。装置の下手、空(そら)の「抜け」がとてもよくて、秀逸。