渋谷La.mama 『KERA solo live My living trick A Night of Small Show』

 メモ取りながらドリンク持つの無理。と早々に引き換えをあきらめ、上手後ろの隅っこに、リュック背負って立ってる。

 アウェー。

 だってあたし演劇部上がりの演劇班だもん。KERAが劇団立ち上げた時、どのくらいawayだったか、ちょっとだけ考える。

 そよそよとこざむいビル風が吹き、道の突き当りに上がり下がりするエレベーターの見えるマークシティが立つ。蔦の絡んだ「ラママ」入り口に、いい感じに放っておかれたツツジが伸び放題に花を咲かせている。初めて来たのかな、初めてではなさそうだけど、いつ、何故来たかは思い出せない。「ラママ」は少し変形で、中にいるとひし形みたいに感じる。下手にキーボード、真ん中に譜面台、上手にギターが二本おかれている。譜面台の奥にピアノがあるかな。出入り口脇の、鏝あとを盛り上げたデザインの壁に厚くペンキが塗られ、ミュージシャンがマジックでさまざまにサインをしている。「銀杏BOYZ」というのが読める。80名限定ライヴ。

 黒の山高帽とスーツのピアニスト(佐藤真也)が、ちょっとロマンチックなピアノを弾く。「そんなしっとりしたの弾くと…(笑)」と、あとから舞台に上がったKERAは戸惑って見せる。緊急事態宣言が解除される日に有頂天のライヴがあって、明日からまた宣言になる日に自分のライヴがあるという話。「だから次のライヴは…」と冗談を言う。

 めっちゃ難しい歌いだしの『STARDUST』。ジャズ…。「And now the purple dusk」むずかしいのにKERAは知らん顔して歌う。音を外しても堂々。「but,」という一音だけが素晴らしい。うすい上品なグレーの帽子に、白とオレンジの飾りがライン状に小さくついている。生成コットンの膝丈の上衣を羽織ってる。中は白Tシャツとジーンズ、茶色のスニーカーのつま先で、とんとんと拍子をとり、右手の人差し指も、マイクの上で拍子を刻む。年を取ったら誰しもスタンダードジャズを歌ってしまうものなのかなあ。次は『神さまとその他の変種』。こっちはいい。手に汗握った『STARDUST』のことをすこし忘れる。

 「ああ もう 日が暮れる

  ああ もう 夜が明ける

  時はたつ 繰り返す 止まれない」

 「流れゆくもの 滞るもの

  海の中にはクラゲがぽつり」

 ピアノがぴろろんと鳴り、かわいかった。「歌う」ということについて考える。だって、『STARDUST』聴くんだったらナット・キング・コールとか、たくさんいるんだよ巧い人が。そこであえてKERA が歌う意味。

 KERAは途中で『クスリルンバ』という薬の名前を挙げるだけで出来てる歌を歌っていた。センスよく字数も『コーヒールンバ』の替え歌に合っている。一番は穏当だけど、二番は毒があり、それもKERAらしい。

 なんか生成りの上衣の裏には色とりどりの試験管が並んでいて、それをKERAが調合してるみたいなんだよね。KERAの歌は「歌を聴く」って感じじゃない。「調合具合を見る」感じだ。パンクだからか。でも歌の事もすごく意識してる。その証拠に今日のバックのミュージシャンて門外漢の私にもうまいなあと思わせる。ピアノは最初こそちょっとしんみり系だったけれど、KERAとの掛け合いも素晴らしく、ギターの伏見蛍(教育テレビに出ているんだって)もうまくてかっこいい音で、私のいるところから姿の見えないヴァイオリン(向島ゆり子)の加わった『Cheek to Cheek』とか、『STARDUST』と別物のようだった。ん?すると最初調子が悪かっただけなの?なぜあのむずかしい曲を一番目に持ってきた?KERAの歌の世界を拡張するためでしょ?「歌を聴く」世界の話だったら、あの歌は却下だよね。とても無理。「調合具合を見る」ならアリだ。「歌を聴きつつ調合のハイセンスを楽しむ」なら、もっと歌い込みが必要。がんばれ。