アマゾンプライム 『ハリエット』

 奴隷のミンティ(シンシア・エリヴォ)は自由黒人のジョン・タブマン(ザカリー・モモー)と結婚しているが、どうしても自由にはなれない。農場主が死に、売られることになったため逃亡を決意する。農場で虐待を受けた後、昏倒して眠る病気を持つ彼女は、牧師や水夫(いわゆる逃亡奴隷を逃す地下鉄道の人々)に助けられ、フィラデルフィアに逃げのびる。ハリエット・タブマンと名を改め、南部に残る夫を救出に戻るが、夫は新しい妻といた。ハリエットは何度も南部へ入り、奴隷たちを連れて自由州、さらにはカナダへと還る。決して失敗せず、正しい判断で危地をのがれるハリエットは「モーゼ」と呼ばれるようになっていった。

 「黒人と白人のドライブ映画」って、こういうことじゃないの。黒人が逃げ、白人が追う。同じ道を辿る「時間差のあるドライブ」だ。時間が重なれば、そこには「死」が待っている。こんな現実が延々と続いている限り、「黒人から見た『グリーン・ブック』」なんか、平和に撮れやしないよね。

 映画の始まりが、ごちゃごちゃと縺れたように情報過多で、とても捉えにくい。シンシア・エリヴォの眠っているのとははっきり違うナルコレプシーの身体、自由黒人と奴隷の表情、ふるまいの違い、連れ去られる姉たちの幻影。こみいってる。そして、最初から最後まで、「時間差で」「ともにドライブする」農場主の息子ギルモア(ジョー・アルヴィン)への憎悪を籠めた複雑な感情が描写されていない。ハリエットのギルモアに向ける最後の表情も、複雑さを欠く。ギルモアの、「食い詰めることへの恐怖」「母への恐怖」は活写されているのに。夫ジョンの後ろから一節だけそっと歌を歌うシーンに、それまでのハリエットの感情が総て伝わる。シンシア・エリヴォはあれだけの歌唱力があるのに殆ど歌わないが、こことてもよかった。