紀伊國屋ホール ラッパ屋 第46回公演 『コメンテーターズ』

 ワイドショーのプロデューサー真行寺(岩橋道子)はお買い物好きという設定で、両手にたくさんのショッピングバッグを持って登場する。ショッピングバッグの大きさは均等で、「お買い物好きのリアリティ」ははっきりいってない。しかし、その嵩張るバッグを持った姿は、あだ名の通りマンガのような「クジャク」に見える。この話はリアリティを追及しない。いろいろマンガっぽい。仕事のない老年の男(横沢広志=おかやまはじめ)が、ためしにユーチューバーになって、テレビ番組のコメンテーターに抜擢されるのだ。パートで夫を支えている妻夏江(弘中麻紀)、子供部屋にいまだ棲む外で働かない「子供部屋おじさん」の息子悠太(瓜生和成)、友人の饅頭屋のおやじ小野(熊川隆一)、テレビのコメンテーターたちや裏方が按配よく配置され、横沢(よこちゃん)の高揚、逡巡、挫折、立ち直りが語られる。そのテーマはオリンピック、たった今の話題だ。時も七月。現実とすれすれの、皆が胸に思うことが芝居に出てくる。でも、中にこわい一言が入ってる。終盤に、これまでのいきさつを観客に向かって、「いろいろおかしかった(変だったの意)でしょ?」というのだ。ここさ、確かに唐突な大団円だったけど、物語を明るい色調でマンガっぽく仕立ててきた作者が、そのマンガをぴりっと破って見せたみたいで衝撃でした。「物語がない」よりかびっくり。「なにがなんでも希望を提出」(鈴木聡、当日パンフレットより)って、そんなに重い課題なの。作者のこころ――ムード――と乖離する方がよくないと思うけど。役者はみな達者だが、もう少しリアリティ寄りにした方がよかないか。ていうかもっと芝居をさせて。弘中の登場の足音が大きすぎ、そして瓜生の手足が余りにも随意に滑らかに動き、この人は断じて「子供部屋おじさん」ではないと思う。あんなに自在に体の動く人が、ぎこちない人間関係とか築かない。