配信 DULL-COLORED POP 『丘の上、ねむのき産婦人科』

 ずいぶんよく調べて書かれている。医療の監修や、ジェンダーの観点からの監修も入っている。だからたぶん、あきらかな思い違いというのはほとんどないのだろう。谷賢一は善意の男性で、出産の「当事者性」を掘り下げながらこの作品を書いた。19歳の専門学校生(冨永さくら)と建築業のその同い年の彼(内田倭史)、キャリアアップのために必死に働く女性管理職(湯舟すぴか)の二人目の妊娠とそれを支える主夫の夫(宮地洸成)、外資の生保で働く16歳年上の夫(岸田研二)とつわりに苦しむ妻(大内彩加)、等々。しかし、谷賢一がこんなに一生懸命考えても、いっときは頭の上にずっと「石」が浮かんでるみたいに「こども」について考えていた者の知らないことは一つもない。予測がつく。(パンフレットの俳優たちの正直な言葉の方がずっと目から鱗だし地続きなのに新しい。なぜこれつかわなかったのか…。)東谷英人と李そじんの夫婦には、「何かの理由で子供が生まれなくなった」という可能性が、洒落たソファの下にうずめるように置いてあり、谷の周到さは感じるけどさー。でも39歳で結婚して子供を授かろうと不妊治療の1500万の出費に耐える女性医師(木下祐子)と作家(塚越健一)のケースでは、「なぜそこまで子どもが欲しいのか」という問いに対して女医は答えられない。ここ、あいまいな感情――それは哀しみかもしれない――を表出する大切なシーンに演出が失敗してる。

 AとBの男女の入れ替えバージョンについても、性差の違いはあまり感じない。それよりも、個々の俳優の台詞の理解の違いの方がこの芝居を立体的にする。全体に役者の芝居が大きすぎる。配信のせいなの?建築関係の彼氏内田倭史、芝居がペラいぞ。背景が全く想像できない。倉橋愛実、顔をそんなにゆがめちゃいかん。目をむくのも控えめに。渡邊りょう、とてもいい役、好演。