新国立劇場 中劇場 2022/2023シーズン 演劇 海外招聘公演 『ガラスの動物園』

 耐え難い牢獄の臭気を感じる。壁に描かれたたくさんの顔が、ここが実は人を閉じ込める檻で、いわばほんとうの「動物園」なのだと話しかけてくる。室内を表わす装置は、外(上)へ出る階段、四角い小さな窓、四角くひっこんだ台所が設えられているだけで、まるで手のひらサイズの家電(アイフォンとか)が収まってる箱みたいだ。現代ぽいね。

 トム(アントワーヌ・レナール)がこのアパートの暮らしにキレそうで、ローラ(ジュスティーヌ・パシュレ)がガラスの動物たちを磨いてばかりいるのがなぜなのか、イヴォ・ヴァン・ホーヴェは観客に、教えすぎるほど教える。教えすぎだよー。どうかと思う。ガラスの動物は涙を流さない。汗をかかない。ハイセツしない。透明で傷つきやすく、輝いている。幻燈、幻影のようだ。

 この苦しい人間の「生活」は、一人の客(ジム=シリル・ゲイユ)を迎えるとがらりと様相を変える。照明はここが毛皮で覆われた部屋だということをやっと明らかにする。(ここ、すごかったよ…)皆寄ってたかって「動物園」の表側、人懐こく、生臭くもふんわり暖かい別の顔を見せる。イザベル・ユペール(母アマンダ)は、娘のローラが学校に通っていなかったことを知った絶望と怒りを爆発させるけど、一音も外しません。トリルをつけすぎることもなく、節回しは正確、伸ばしも縮めもしないのにとても自由。悲しみは深く、怒りは激しいが、この人いつも何か「気を取り直している」のだった。そこが愛せるよね。トムはマジックがたどたどしく(二回目だって!)、もっと芝居を「映画に行く」暗さに特化した方がいいよ。アマンダ、ジムに恋人がいるのを知ってする瞬き多すぎ。瞬きのうちにこの芝居は現れ、消える。ローラが蝋燭を吹き消しても、追憶の目の奥の暗がりに、きらきらするガラスの動物たちは残る訳だけど。