東京ヒューリックホール 『PHANTOM WORDS』

 「あんた誰だっけ」第2幕冒頭、4時間の芝居を半分見たところで、心に呟いている。

 中国の秦王朝が滅び、漢が勃興するあたり、沛の街の威勢のいいあんちゃんの劉邦花村想太)を中心とする芝居なのだが、たった今、2500円のぺっらぺらの(表紙いれて14葉)パンフレットを見て、軍師雛罌粟(生駒里奈)の語る終わりの言葉、「その言葉に抗った者だけが天下を取れる」という、この芝居の肝を知りました。

 登場人物は多く、全員が一本芝居を背負えるハンサムばかりだ。張良(鈴木勝吾)、蕭何(安西慎太郎)、章邯(畠山遼)、陳勝高橋良輔)、子嬰(松本ひなた)、英布(君沢ユウキ)、樊噲(村田洋二郎)、項梁(萩野嵩)、項羽山本涼介)、韓信谷口賢志)。一回の観劇では到底把握できない。芝居の筋も不親切だ。つまり、この芝居はあの厭な言葉、「リピる」のを前提に作られている。全てのハンサムがゆっくりしたいいシーン、いい台詞を喋り、続いて激しい殺陣、ゆっくりしたシーンという単調な繰り返しが続く。新感線にものすごく似てるけれど、中島かずきは絶対に「秦の兵が大手を振って狙うほどの男じゃありませんよ」、「野(の)に下る」、「天下に出る」という間違った言葉は使わない。後ろのホリゾントに台詞が出るのなら、田中良子はあんな大仰な芝居はしなくても済んだはずだ。ハンサムが出ることでいい面もある。簡単な説明で韓信と雛罌粟の心のあやが納得できる。逆に言うと、作家は成長しない。

 宦官の李斯(長友光宏)が、太った体を揺らし、介添えを受けてゆっくりと階段を下りる。中国語の台詞を話し始めるところ、ぞくぞくした。異物として登場するため「たっぷり」した死が与えられず、そこもよかった。子嬰が泣き崩れるのもいい。呂雉(楠田亜衣奈)の扱いが雑、槍を何度も死体に突き刺して笑いを取るの最低。