東京芸術劇場 プレイハウス 東京芸術祭2022 芸劇オータムセレクション『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』

 稀代のけちんぼうアルパゴン(佐々木蔵之介)は、召使のお仕着せから食べ物からなにもかもにけちけちしている。娘エリーズ(大西礼芳)を金持の老人アンセルム(壤晴彦)に縁付け、自分は息子クレアント(竹内將人)の思う人マリアーヌ(天野はな)を妻にしようと画策する。俳優の喋る台詞の音(おん)が、ものすごくいいよ。全部むねの衷心から声が出て、無理がなく、さらさらしていて、清らかだ。心が透けてる。「見える」。この心の透けてる人たちが、自分の思惑を舞台で吐露し、鎖された家を透かして走り回る。特に娘のエリーズが、金を使わず万事貧血しているような家の中で、成長できず、小さなたて笛をいつも練習している姿が、アルパゴンの一家を象徴していて、可笑しく、かなしい。しかも、シュッと薄紙を刃物で削いだようなセンスだよね。皆窮屈に背を屈めているようなアルパゴン家に対し、「鏡の中から」理想のアンセルム一家が登場して、エリーズやクレアントを解放してくれる。しかし、その救済はアルパゴンには及ばない。アルパゴンは一万エキュの箱を抱えたまま、地の中へ、「見えなく」なるのだ。最初に登場したアルパゴンの下手から中央までの動きが、ほんとうに綺麗だった。揺れる帳のような透明の間仕切りを見ていたせいだろうか、俳優の限界というのは、緊張し張りつめたぎりぎりのものでなく、あの仕切りのように左右に揺れて、そっと可動域を上げていく存在に感じた。すくなくともプルカレーテにおける佐々木は、そんな風に成長しているよ。けど、「音」はいいのに、台詞の中身の詰めがダメ。そこがダメだと、芝居全体の「ケチ」がわからん。もっとお金に執着する。壤晴彦、台詞しっかりね。ヴァレール(加治将樹)の終盤の正体を現す台詞が弱い。自分に確信を持て。限界は、あなたの為にもゆらゆら揺れているのだ。