東京芸術祭2020 東京芸術劇場30周年記念公演 『真夏の世の夢』

 開演前、勿論舞台は暗いけど、空調の換気の音やスイッチがオンのまま消された照明の立てる奇妙な唸り声が聞こえてくる。舞台の一番奥には銀色らしい四角いもの(調理台)が、客席の赤いシートを映している。何でしょうこの宇宙感。ここにすべての重力や光が閉じ込められている感じ。もしかしてこれ、宇宙の目?ブラックホール?割烹料亭「ハナキン」や富士の麓の「知られざる森」は、宇宙の浮島のように思われる。

 虫の音が聴こえ、犬の吠え声がする。夜。日本の夜だ。そこに人影はないのに、靴だけが、右、左と上手から下手へ行列して動いてゆく。それを見守るそぼろ(鈴木杏)。そぼろは眠る。これはそぼろの夢なのだから。この芝居の夢はいくつもの皮をかぶっていて、薄い繊細なそれもあれば、龍の皮のように鋭いかぎ爪でひっかかなければ破れないものもある。こうした「誰か」の夢を経巡り、私たち観客はいくつもの夢を見る。メフィストフェレス今井朋彦)は森をブラックホールそのものにしようと画策する。彼の台詞には絶妙の抑揚がつけられ、メフィストが日本生まれでないことを示している。妖精たちは色とりどりのポリ袋を纏い、「夢の島」やポリ袋で包まれた放射能事故の残土を思わせる。「棄てられた者」「はみ出した者」「無いことにされている者」の暗い夢。そぼろもやっぱり暗い夢を見ている。しかし彼女が夢の皮を破ることで傾いた「真夏の夜の夢」は均衡を取り戻す。「これって披露宴よね?」というそぼろの台詞の後に続くかすかな間、ここがコワイ。ここにも夢の皮があるような、現実を侵食する夢がまだ控えているような気がするのだ。ここ、もっと強調してもよかった。今井朋彦、うってつけの役で生き生きしている。鈴木杏、メイクもかわいく、成長していた。壌晴彦の言葉が彫りつけたようにくっきり。職人チーム台詞弱いよ。