世田谷パブリックシアター シス・カンパニー公演『ショウ・マスト・ゴー・オン』

 再演の映像を、深夜のテレビで観たのかなあ。「松」、「トランプ」くらいの、断片的な記憶しか残ってない。楽しく観て、すっかり忘れてる。今回この28年後の再々演を観て、「ふーん」と感心するのは、ところどころに、ひんやりした匕首のような怖さが潜んでいるとこだ。楽しそうな素人に、三谷幸喜扮するあずさが、「あそびじゃない」というシーン、舞台監督の進藤(鈴木京香)が、作者の栗林(今井朋彦)の脚本をくさすところ、等々、笑いに紛らかして提出されてるけど、どれもほんとは重い。東京サンシャインボーイズの決定的な弱点は「リアリティがない」こと、それは「リアリティより笑いを取る」三谷幸喜の気質からきていたんだなと思った。そしてこの芝居には、28年前にあった「弾み」がない。舞台が広く感じられ、間髪を入れない、打てば響くようなテンポが欠けてる。もう一つはさっき言った「リアリティ」、ショックを受けた登場人物が立ち直るまでの深い芝居(細かい芝居かもしれない)も欠けてる。だめじゃん。舞台でのアクシデントが数珠つなぎで起き、数珠の大小、一つ一つの衝撃のメリハリがない。たとえば、峯村リエの野原さんは、後半目覚ましくよくなるが、前半こそ「出番だわ」とぱりっとリアルに作らないと、94年版に比べて終景が弱い。鈴木京香がビール缶を潰すとこ、いったん底まで心が落ちないと(そして表現しないと)。中島(藤本隆宏)、浅倉(小澤雄大)、八代(大野泰広)は、存在のリアリティ(どこからきてどこへ行くか)が薄く、のえ(秋元才加)は声が大きすぎ、木戸(ウエンツ瑛士)はふつうすぎる。声の小さい尾木(荻野清子)のシーンでものすごく笑いました。三谷幸喜の代役(スタンド)、どの人の代わりもでき、最強だが、もすこし「決めて」出て来てほしかった。70%切るくらいの役作りだったら、普通そこでケータイ充電しちゃうよ。