草月ホール リーディングドラマ『終わった人』

「ははあ。」というのであった。時折劇場で見る西洋の俳優の体幹は分厚く、ツイードなどのジャケットを着ていても、ああジャケットが喜んでんなーと思うくらい、「隆(りゅう)としている」。中井貴一が躰鍛えているとことさら言ってるのを見たことはないが、中井は西洋の俳優に遜色ないほど胸板が厚い。ということは?遜色ないほどいい音が(声が)出るはずでは?一幕目はマイクの調子が悪く(がっかり、マイクだよ)、中井の地声よりも高い音が鳴っていた。主人公田代壮介はいいのだが、妻千草(キムラ緑子)のいとこトシの声は、工夫しないとダメ。イラストレーターでしょ。しゅっとしてんじゃないの。そして、中井が声を出すもう一人の登場人物、壮介の人生を変えるネット通販の会社社長鈴木の声もいまいち。トシも鈴木も、本日ただいま中井が声を出しているこの舞台の空気を吸っていない。リーディングドラマと名乗るのに、これじゃいかん。キムラ緑子の「壮介の同級生二宮」は、途中で中井にアドリブで注意されるほど、ヒック、ヒックという酔っ払い加減がまずかった。千草が借金を知って激高するところはもっと出来るはずだがやってないねー。顔が攣るくらいの激高、額に青筋が出る怒りが一瞬あったほうがいい。いくつかの筋を操る原作、コメディか悲劇か決めかねていた映画に比べると、世界はコメディに定められ、話は一本の線の上をするすると進む。定年を迎え、どう自分の人生を引き受けていったらいいのか戸惑う男。男の試行錯誤を見守ったりキレたりする女。終盤、話が「田舎」に収束するのが、原作同様解せないよ。でも、会場には六十代の男女も多く、「俺は終わった」という壮介の自虐的な台詞がウケていた。中井貴一が果敢に「アイロン」のマイムをするのを見て、アイロン難しいよーアイロンに見えないよーと胸につぶやいたが、中井が語ればキムラの貌が、キムラが話しかければ中井の貌が、それぞれ相手の台詞を吸収して変わり、呼吸するのに見とれた。朗読劇さ、この頃よく見るけど、これが基本じゃないの。