日産スタジアム 『B'z LIVE-GYM Pleasure 2023 -STARS-』

 キタイニコタエル

 日産スタジアムを埋める、5万だか、6万だかの観客を眺めながら、そこんとこを考えていた。5時48分、風は3メートル、気温30、1℃、ステージの温度は32,9℃だ。期待に応え、応えして、本日B’zはとうとう35周年ライブを行っている。会場に来る前、電車の中に、すでにコンサートTシャツを着ている人がたくさんいた。有明、行ったんだねぇ。ファンが熱い。つよい。そしてステージの進行を、もうちゃんと把握している。

 舞台上方のスクリーンにここへやってくるB‘zが映り、その下の黒い鉄骨の枠組みの中から、バンドとB’zが現れる。ギター松本孝弘、ヴォーカル稲葉浩志。松本はゼブラ柄の羽織物に黒の上下、稲葉は明るい青っぽい柄のトップスに赤白の柄のパンツ。うーん。会場広いー。人間一人はちいさいー。90年代のバブルの時、来日したローリングストーンズをテレビで見た時と同じ感想、「人間のできることには限界がある」。ちいさいなー人間は、そして見えないなー。ちょっと悲しくなるが、周りのボルテージはもう上がっている。「LOVE PHANTOM」。B’zの曲って、サビの力がめっちゃつよい。キャッチーで覚えずにいられない。この歌とか、なんかサビからはじまってない?わたしの戸惑いなど押し切って、稲葉は歌う。音響も気になったけど、歌はそこを無視する。どんどんやる。「FIRE BALL」、ステージ前を打ち上げられた火の玉がくるくる回って煙を残し消える。少し熱くなる。稲葉があいさつをして「RUN」。皆人差し指を挙げてかざす。どこかの国の選挙本部に紛れ込んだみたい。スタジアム後方の雲が茜色に焼けている。かすかに風が吹く。

 「夜にふられても」、あ。と松本のギターの音色が澄んでいるのに気づく。こういう音を出す人なんだなー、だから35年続いたんだ、と勝手に納得した。

 「恋心(KOI‐GOKORO)」も、大変覚えやすい、しかもいい曲であるけど、稲葉はじぶんちって感じで中断するのも自由自在に、ざわざわさっくり歌い上げる。選挙を見守る党大会だよねー。

 今日のライブで一番良かったのは、そのあとの「イチブトゼンブ」を、最初のさわりをピアノで歌ったとこ。「愛しぬけるポイントがひとつありゃいいのに」。ありゃの「あ」が完璧。どの音にも艶があり、意味をきっちりこちらの心に貼り付けてくる。すばらしい。こういうのもっと聴きたい。はっとしたし、あの「あ」でへなへなになりました。

 12弦ベースの女の人が弾きまくるとこ、稲葉はもっとびしっと彼女の音を自分の体に入れるべき。「女の音をカラダにいれる」、そこちょっと逡巡がある。久しぶりに歌った「BIG」も、主人公の男になるのをちょっとためらっていて、すこし自分から浮かしてうたっていた。なぜ?イメージが違う?イメージって?

 後半稲葉は生の声で大声を出して見せ、喉をこじ開けて最高の自分の声に持って行った。無理するなあ。気をつけてよ。ピアノで(松本のギター一本で)歌うライブ観たいから、喉大切にね。

 「ultra soul」で「BAD COMMUNICATION」をはさみ、疾走感があってよかったんだけど、そのあとの「君の中で踊りたい」が低調だった。音楽の中に声が落ち込んでしまい、演奏も全くパッとしなかったよ。

 ケータイの明かりでスタジアムが光の原っぱ、光の海のようになり、それはとても美しい光景で、この人たちに支えられて今日がある、とB’zが思うのは当然だけど、キタイニコタエテ、コタエテ、コタエツヅケテ、ドコへ行く?少年、青年というものは、ついつい、キタイニコタエテしまうものだけど、一つ言っとく。

 期待になんか応えなくていい。そんなもん、もう裏切っていいんだよ。期待に応える、それはすばらしいかも、そして退屈。