シアターコクーン「盲導犬――澁澤龍彦『犬狼都市』より――」

縦に5段、優に30列は並ぶ舞台の幅いっぱいの銀色のコインロッカー、照明が小さな白い三角形をいくつも作りながら舞台を照らす。盲人影破里夫(古田新太)が歌を歌うと、その明かりがだんだんに薄れ、破里夫の上にだけ落ちる。それがしぼりにしぼられて消えるかと見えるとき、

 しゅっ

マッチの明かりで真っ赤なドレスの女(奥尻銀杏=宮沢りえ)が立っていた。

 銀杏は330番のロッカーに、昔の恋人への手紙をしまわれている。死んだ夫(木場勝己)が鍵をかけたロッカーに、毎日100円を払いながら、爪でこじ開けようとしているのだ。

 破里夫は不服従の犬、ファキィルを探している。それに「三つ目の肺」シンナーを吸っているフーテン少年(小出恵介)も巻き込まれ、さがしはじめる。

 不服従の盲導犬。そんな犬が、ほんとうにいるものだろうか。三年ぶりに、盲導犬の訓練士になろうとしている昔の恋人タダハル(小久保寿人)に再会する銀杏。二人の会話を聞いていると、不服従の犬とは、容易に服従しない情動のことではないかと思える。そしてこのロッカーの群れはひとつひとつが女のその「奥」を象徴しているのだ。

 死んだ夫を撃ったタイの女トハの弾丸が、夫を突き抜けて日本へ、そして銀杏の撃つ幻の弾丸がおなじ軌道でぶつかりあって犬の毛が燃え、トハと銀杏が一人の女になる。スリリング。トハ=銀杏が犬の導輪をはめられる経緯は魔術のようだった。

 何のセリフもなく立っている(すわっている、寝転んでいる、)宮沢りえに、視線が吸い寄せられる。たたずまいが、唐十郎の世界の女になりきっていた。