東京芸術劇場プレイハウス NODA・MAP第25回公演 『Q:A Night At The Kabuki』

 『Q』はずいぶん変わったねー。「クイーン」、そして『オペラ座の一夜』がバンドの四人を一つの脳髄に納めているように、『Q』で繰り広げられる極彩色の源平合戦は、「それからの愁里愛」(松たか子)という女の頭の中から吹きこぼれてゆく物語だ。それは寝台で始まり、寝台で終わる。おんなはどこへも行かない。ただそこに居る。消えた恋人が戻ってくるよう、何度も過去を辿りなおすのだ。男は戻ってこない。戦争へ行った。戦争で疲弊しきっている。戦争ヨオワレという声が高く聴こえ、それから、戦争とはオワラナイのだという正反対の低い声が聴こえる。それは女の純粋な思いのたけが小さい一機の紙ヒコーキの形を取り、また別のシーンでは紙ヒコーキの群れが暗鬱な爆撃機の編隊となって舞台上を掠めるように、矛盾している。巴御前(伊勢佳世)、瑯壬生の母(羽野晶紀)の造型がびしっとなったなあ。何より、『逆鱗』と双子のように似ていた後半の演出が、変わったところがいい。平水銀、白銀(小松和重二役)、そしてその裏切りが、もっと明確になってほしい。野田秀樹が歌舞伎っぽく喋るところが付け焼刃。もっと芯からKABUKIに取り組んだ方がよかった。広瀬すずシェークスピアよくなった。しかし言葉(呼び名)に気持ちを込めるとこ、志尊淳ともどももう一歩深くいけそう。名前を捨てることが平時と戦時で意味を違えてしまう、というコントラストがちょっと迷子だなー。平清盛竹中直人)のメイク、ジョーカーには見えん。今日は初日かぁー。まず、皆声が剰(あま)ってる。上川隆也含めベテランの身ごなしが、めっちゃ軽い。あとアンサンブルのマスの動きがまだ硬い。

 この舞台そのものが、思いのたけを籠めた小さな紙ヒコーキだ、女の部屋――病室――を折りたたんで、そっと飛び立ってゆく。