M&Oplays produce 『家庭内失踪』

 いるけどいない。野村(風間杜夫)の妻雪子(小泉今日子)のうっすらした非現実感、不在感。夫と話しているときも、義理の娘かすみ(小野ゆり子)と思い出話をするときも、何だか少し、中空にういているみたい。その非現実感は、パソコンに話しかけるところで頂点に達する。なんだろう、この女の人。「うそいいました」といってるの?わからん。きっと一緒に暮らしている野村にもわからないだろう。だが野村は「わからない」ことなどはなから問題にしない。彼は「わかっている」ことの中であがく。不能。妻を性的に満足させられないという焦燥感。妻の「わかっている」部分を見失ううすい悲傷感。

 この芝居は岩松了岸田戯曲賞受賞作『蒲団と達磨』の続編である。あの時は、夫の性欲過剰が問題だったのにね。前作で結婚式を挙げていた一人娘かすみは夫石塚のもとを出て実家に帰ってきており、石塚はそんなかすみを監視するために、部下の多田(落合モトキ)を毎週日曜、野村家に立ち寄らせる。一方、野村の友人望月(岩松了)は、ある時ふと家を出て行方をくらまし、日々町内で妻の様子をうかがっている。

 「いるけどいない」雪子、いるのにいないといわれるのを恐れる(不能で「いるけどいない」)野村と、「いないけどいる」かすみの夫、望月の妻の影が交錯する。野村と雪子が話しをするとき、互いの姿は見えるが、実は話さない方の一人は消えそうに軽い。しかし、ここで語られる三組の夫婦のどちらか一人が舞台にいると、その不在の片割れはくっきりと姿を見せて、重い。左右にスライドするセットに、見えない側が「ある」ということも、はぐれあう夫婦の姿を裏書きしていた。かすみの夫、望月の妻の芝居がもう一つ、となぜか思ってしまう。どんな人だかすごく見たかったんだなー。