M&Oplays produce 『市ヶ尾の坂ーー伝説の虹の三兄弟ーー』』

 時計がない家。近代のモダン和建築と、戦後すぐの住宅公庫で建てたような安普請が、ないまぜになってる不思議な家。思いつきのような畳の上のスツールとカウンターもある。しかし、下手手前のポトスの鉢を置いている小テーブルが、しっとりと落ち着いて、ある重さ、湿気を伝える。

 都市計画のために歯抜けのように空き家が増え、すぐわきの坂をトラックや乗用車が凄い勢いで通過する市ヶ尾の町。ここに三人兄弟が暮らしている。

 明るくなると次男隼人(三浦貴大)が下手窓を背にして立ち、ソファの美しい人妻カオル(麻生久美子)の話を聞いている。カオルは子どものころの思い出話をしている。彼女はバスに乗るまでの時間を顔見知りの兄弟の家でつぶしていることがわかってくる。

 この芝居を観ていくうちに、兄弟がカオルを愛している、というか、讃仰している、お母さんになってもらいたい!とおもっていて、カオルの子供をまるで自分自身であるかのように感じているのだと知る。水を渡しあう三連水車のような兄弟に、カオルはお茶を淹れ、ホットミルクを作る。

 麻生久美子、以前観た時よりぐっとうまくなった、というのは、台詞の中にカオルの性根、役の骨のようなものが浮き出して、この女の人が、どんな行動にでても、観客が受け止められる、理解できるという下地を作っているからだ。それは冒頭の隼人との会話に現れる。これに対して、隼人は、「享受している」「独り占めしている」感が少し薄い。大森南朋、コミカルな役が浮かずよかった。着替えを差し出すときもっと必死で、そしてそれを一生懸命隠してないと、現代では通じにくいかも。