紀伊国屋ホール 扉座40周年★withコロナ緊急前倒し企画『10knocks~その扉を叩き続けろ~ 10歓喜の歌』

 見たところ1200円はしそうな立派なパンフレットが只。皆口ではいろいろ言うけれど、実際に無料にするというのはとても難しい。だって興行だもの。偉い。ひとしきり扉座の果断に感心し、すごいなーと思った後で、芝居(リーディングだけど)を観て考え直した。パンフレットただ。それはやばいよ扉座。一番まずい。

 何故ならリーディングの空気が、とても微温的なのだ。ずっとついてきてくれている観客が温かく優しく、いろんなシーンで笑ってくれ、手拍子はあつく激しく、カーテンコールはダブルでスタンディングオベーションだ。リーディングだけではつまらないだろうという微温的なサービスか、皆きちんと扮装しているのだが、その優しさが仇となり、誰の衣装も似合っていない。着こなせてないよ。(仮)と書いてあるのが目に見える。特に佐々木このみの赤いリボンと江原由夏の白い眼鏡はひどかった。衣装が似合ってないだけではない、どの役も、背中に(仮)の字が浮き出している。これは劇作にも問題があり、LGBTだの日系三世だのの出し方が、結局間に合わせの(仮)でしかない、賑やかしでしかない。脚本が(仮)だから演技が(仮)になり、演技がぬるいせいで脚本がぬるくなる。女同士の争いを男がエンタメにするというのも久しいよ。中では当たりくじを巡る鉄火場のような商店街のやり取りが面白く、山村主任の犬飼淳治は健闘した。

 開演前に主宰の横内謙介は、いろいろ大変な中頑張っていることが如実にわかる挨拶をし、ドイツの文化大臣が文化は我々の生命維持装置だといったという話をしていた。あったりまえだあー。生命維持装置だよ。文化、それ以外の事、特に人に言いたいと思ったこともない。但し、それが面白ければの話だ。そこんとこの客の厳しさ、1200円分欠いてるよ。