DDD青山クロスシアター 『フリーコミティッド』

 上手隅にゆっくり暗くなりまた灯るクリスマスツリー。そこだけがさみしく片付いている。その他はすべてが乱雑に詰め込まれて、なんというか…喧しさを醸し出している。

 舞台中央奥に黒板、きゃあきゃあいいながら(と感じる)メモ紙がマグネットでびっしり貼りこまれている。その後ろにはトーネットらしき椅子やスタンドが、まるで陽気に声を掛け合ってジャグリングしているように楔形に積み上げられ、下手寄りにはパイプの柱。この柱もよくしゃべる。No!NED FINLAY(赤矢印)と、違ったやり方で6回くらいも書きこまれているのだった。

 たった一人の登場人物サム(成河)は、電話や装置、世界のうるささと、孤立無援のまま2時間も渡りあうのだ。怖気を振るう戦い、サムと成河は健闘する。

 猫を撫でながら電話してくる女、クウェートからかけてくる威張った男、日本人ワタナベ、それから階上のスタッフ、ジャン・クロードを呼び出そうと粘る正体不明のフィッシュバーンさん、サムの働く一流レストランの予約が取りたい人々。もう一人の予約係ボブはやってこず、本業は役者のサムは、一人暮らす父や自慢屋の役者友達とも飛び飛びに連絡しながら、悲惨な一日をへとへとになってやり抜こうとする。ところが。

 「物語の軸になるサムという人物は超凡才なんです」(パンフレット)成河はサムをこんな風に語る。うーん。愛がない。最初の方のジャン・クロードの電話が切れた時のリアクション、ここ全然味がないのはそのせいではなかろうか。成河はとても芝居がうまく(美しい猫が見える!)素晴らしいけれど、熱演が芝居の芯を喰っちゃってもいる。話はどういう物だったのかが薄れがち。これは演出にも責任がある。シニカルさがよく見えないのだった。