シアタークリエ KERA CROSS第二弾 『グッドバイ』

 ラブ・コメかあ。ラブ・コメにはだいたい、ツンデレが必要ではないかと思うのだ。キャラクターの二重性というか、企みのようなもの。でも一方で、コメディはその場その場の台詞を心から真剣に言うことが求められる。ここ、むずかしいよね。企みと真面目。

 昭和23年、雑誌編集長の田島(藤木直人)は、数多い愛人たちと別れることにした。怪力で美女の担ぎ屋キヌ子(ソニン)を金で雇い、二人は愛人たちのもとを訪れる。

…という所は太宰の小説『グッド・バイ』と同じ。一幕は足取りが重いが二幕で息を吹き返す。藤木直人がかっこいい、そこはラブ・コメの鉄則だが、藤木は台詞を言いながら、いつも「その場」にいないのだ。「マインドフルネス」だよー。深呼吸してー。まずアリョーシャ(ドストエフスキー)になれー。下着姿のところ、下着なのにかっこよく見えてしまう。衣装、あれでいいの?そして藤木直人は「下着です。」という全身を、観客に見てもらわなければならない。うわかっこ悪いという瞬間をこっそり、ごく微かに、「企む」のだ。というか下着姿を「引き受ける」。引き受けとらん。これ、藤木直人が自分のグランドデザインをどうするかという問題とリンクしている。どうする?ソニンのキヌ子はたくさん食べる登場のインパクトが強すぎて(笑った)、終幕までラブ・コメ的に回復できない。最後は満場の婦女子の夢を背負ってなくちゃ。企みが足りない。これは演出の問題だろうか。あと「進駐軍につかまった」っていうの、わからなかった。二幕、後輩編集者の入野自由と洋画家の長井短のシーンがいい。このやり取りがスクリューボール・コメディでしょ。

陽気なディキシーランドジャズが流れ、原稿用紙の塔がたつ。ここはきっと田島=太宰のお墓だろう。太宰は自分の悲惨な女性関係を、ひっくり返して喜劇に見立て、去って行ったのだ。