アマゾンプライム 『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』

 絵筆がブリキ缶にあたる微かな音。曲がった腕で一人の女が絵を描いている。絵の具の色はつやつやと赤く、筆の先にたっぷりと溜まる。女の指の第二関節に、ターコイズグリーンの絵の具がくっついている。これ、夢の色だ。

 『しあわせの絵の具』。うっげー。この題名ひどくないか?たとえば「しあわせの湯飲み」、「しあわせのさじ」、「しあわせの靴下」、なんでもいいけど、「しあわせの――」映画、みない自信ある。スウィートすぎる。けどさ、外出しないで家にこもり、一心に映画を見てるうち、おっ、と思うのである。

 体が思い通りに動かないモード・ダウリー(サリー・ホーキンス)は、どこでも厄介者にされ、寂れた小さい一軒家で家政婦を探すエべレット・ルイス(イーサン・ホーク)と同居するようになる。モードは深い所で絵に頼っている。彼女が息を吐いて絵の具の缶を開けた途端(色はターコイズ・グリーン)、缶の中から(何か出た)と感じる。夢、あこがれ、絶望、悲しみ、そういうもんがぱあぁっと缶から放射する。だからしあわせの絵の具なんだねー、でもさー…。

 孤児院育ちの武骨な変わり者ルイスが登場した後アップになると、(スウィートだなあイーサン・ホーク)と違和感がある。男前。可愛い。「しあわせの絵の具」だよ。しかし手押し車を押す後姿はいかつく、口ぶりは荒い。モードが新聞記事の中に彼の名前があることを告げる時、この男の中の子供(スウィートさ)が中から溢れてくる。まるでお母さんを讃仰するように彼女を見上げている。

 最後に実物のモード・ルイスが白黒映像で映るけど、それはショッキングなくらい苦労してきた女性の顔だった。傷つく人生、つらい人生って、こんな顔つきをしているのだ。