三島由紀夫没後50周年企画MISHIMA 2020 『班女』

 変わり種の三島作品を3本観た後ではたいへん、たいへん、オーソドックスな『班女』であった。

 舞台奥に男(中村蒼)と女(橋本愛)が現れて近づき、たぶん『トリスタンとイゾルデ』が流れ、互いに取り出した畳んだ扇は影になるとまるで剃刀のように見える。

 中村蒼はシュッとしてかっこよく、橋本愛も動きは素人っぽい(「これがえんげきよね!」って感じ)ながらとても美しい。

 麻実れいの実子(じつこ)は「井の頭線」「新聞」って言葉がそぐわないほど品があり、自分を解き放って丈いっぱい演じているのが感じられ、魅力爆発である。最近、ヤク中や老女や狂女がつづいていたからなあー。誰にも遠慮しないでばんばんやっているなあ。実子の擒にされている花子(橋本愛)、花子を取り戻しに来た吉雄(中村蒼)も必死でついてゆく。橋本愛、これといったミスもなく話を進めるが、(これがえんげきよね!)が邪魔。舞台3本目か。しかし声にはインテリジェンスと翳りが感じられ、続けていくといいかもしれない。これに対して、中村蒼は、「声の底が抜けている」。それじゃあぜったい、花子は取り戻せん。先生みたいでごめんだけど、本を読みなさいと言わざるを得ない。本読んでないでしょ?声に出てるもん。声の奥、しめるべきところがしまってない。自省がない。サッカー選手の伝記からでいいよ。月に十冊くらい読んどいて。

 花子の上に身を屈める実子をみると、この芝居の構造がわからなくなる。この人誰だろ。花子と実子は同一人物なのか。それとも愛人なのか。

 二人は寄り添って帆船を艤装し、いつでも帆を上げて恋人に合図できるよう計らったまま、さまよい続けるのかもしれない。