アップリンク渋谷 『HITSVILLE:THE MAKING OF MOTOWN メイキング・オブ・モータウン』

 デトロイトの自動車組み立て工場の生産ラインで働いていたベリー・ゴーディが、音楽レーベルを立ち上げる。自動車の完成までと同じような工程(アーティストの発掘、育成、品質管理など)を経て、爆発的な勢いでヒット曲やスターが生まれる。ゴーディの抜け目なく鋭い頭脳、なによりよい曲を見極める力が、デトロイトの小さな二階家を、全米に知れ渡る場所「モータウン」に変えてゆく。

 目からうろこがとれたように、何もかもがまぶしく、新鮮。中でも、マーヴィン・ゲイが上品なハンサムで、普段から惹きこまれるような声をしているのに衝撃を受ける。美男におわす夏木立かなとか思い出した。それから、スプリームスのPV(?)で、三人がぴょんぴょん跳ねて、歌いながら車道を渡るとき、それを舗道に押し込む白人巡査の手の冷たさ。

 モータウンの最初期からのアーティストでもあるスモーキー・ロビンソンは現在80歳、ゴーディは91歳だが、この(最近の)インタビューにはきはき応え、記憶には曇りもなく、なんかこう、モータウンの歴史が「立志篇」「風雲篇」ていう感じの、面白くて読みやめられないビルドゥングスロマンのようなのだ。そして全巻を貫くスモーキーとゴーディとの信頼関係が、頁の活字を金色に輝かせている。完成品となったアーティストをさらにブラッシュアップするために、行儀作法や自分自身への信頼を植えつけ、成長を促すところがへぇーと思った。この作品に引っかかるところがあるとすれば、「人間を自動車のように扱う眼」が、アーティストの芸術性の前に敗北していくいきさつがいまいち鮮やかでない点だ。そしてあの「社歌」。何だかモータウンぽくない、古い曲調の歌であるという、「おもての歌」との落差について、もっと分析するべきだった。だってあの社歌、誰も思い出せず、愛されてないじゃない?