角川シネマ有楽町 Peter Barakan's Music Film Festival 『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』

 ゆりかごから墓場まで

 という、たった10文字ほどのスローガンが、どんだけ大きな波紋と事態を呼んだか、この映画で突然、ぴかっとわかった。教育の充実と福祉の完備が、次世代(マイケル・ケインの世代)をでかく育てたのだ。日本の保守派の作家すら、「イギリスには顔色の悪い人がいなくなった」とその成果を遠回しに認めていたよ。60年代、労働者階級の才能ある若者がロンドンに集まり、互いに影響を与え、発火し、その火がアメリカにまで伝播する。「やりたいことをやる」、彼らは直線的で無作法でお構いなしだ。そうでなければ掴めない物があることを直感的に知っている。ツィギー、ドノヴァン、P・マッカートニー、マリー・クワント、ミック・ジャガー、世界につきつけられる死(キューバ危機)にも追い立てられ、ロンドンの若い人たちは飛躍してゆく。負の側面、麻薬の流行も語られる。古い映像と新しい映像がなめらかにつながり、マイケル・ケインは老いてもすてきで、60年代の事がスーッと頭に入った。しかし、終わりにマイケル・ケインがいい車に乗り静々と60年代の空気を引き連れ去っていく所を見ると複雑な気持ちになる。あのー、このあと『トレインスポッティング』みたいに若い人悲惨になっていくんですけど。『ロンドン・キルズ・ミー』なんて、「非道いことがあっても俺は社会のせいにはしない」とか、政府肝いりの一節が入ってたりしましたけど。ブリティッシュ・インヴェイジョンと謳われた割には、この映画はものすごく内向きだ。夢が小さくまとめられちゃってるよ。また、マイケル・ケインの登場が通り一遍で、「コックニー訛りのミッキーマウスではなかった俺」の矜持と痛みがない。ミニスカートを見たケインのお母さんの、「売り物じゃなきゃウィンドウに飾らない方がいい」って、意味がすらりと理解できなかったよ。