世田谷パブリックシアター 〈りゅーとぴあ×杉原邦生〉KUNIO 10『更地』

 ポストトーク出演の白井晃は、11月14日開幕のKAAT『アルトゥロ・ウイの興隆』を控えており、11月28日には、来年1月の『マーキュリー・ファー』のチケットが一般発売される。紹介せんと駄目やん、杉原邦生。

 劇場に入ると、奥に向かって高くなっている白い二重の上に、雪をのせた小さな家の模型が置かれ、家を挟んで両側に影が映り、「更」と「地」という字が読める。開演10分前、もう俳優が登場する。男(濱田龍臣)は下手奥、女(南沢奈央)は上手手前から二重に上がり、静かに、スローモーションで歩を進める。二人はこのシーンだけ、黒い服を着ている。南沢奈央の足裏が白い。その裸足の足がゆっくり上がり、踵をつけ、地を踏み、つま先に力が入り、膝に重心がのり、踵がまた上がる。(あのさ、南沢奈央、足のつき方が「かかと、まんなか、つまさき」の3か所になってるけど、この芝居は「分割」じゃなく「分解」について語っていると思うよ。もっと細かく丁寧に足の裏を感じなきゃだめさ。)5分たつ、女はゆっくりと頭を下げ地面に耳をつける。男はそれをみながら、あまり足を上げず、やっぱりゆっくり歩く。「歩く」が分解される。このプロローグに続き、「雪を燃やす家」の寓話が語られ、男と女はベージュの服(コートとパジャマに近いような簡単な普段着)になって、二重の周りを時計と反対、左に3周する。3周目で男がうっすら年を取ったことがわかる。それを不思議に思わない女も、きっと年を取ったのだ。円環。更地になった家の跡を見に来た男女(夫婦)という主題が変奏され、「人生」が分解される。男と女は最終景でやっと同じ方向を見るけれど、それまで視線はずっとばらばらだ。「食べる」が分解され、二人は「指」でスパゲティを食べる。蝉の声(セックス)をラップで分解する所は疑問だよ。ラップの腰が重いんだもん。濱田龍臣、ラップ頑張らなくちゃ、あか抜けない。若い二人は中年―老年―青年とくるくる人生を廻り続け、「テキスト」の「老い」「更地」「雪」は逆方向から照らされて「始まり」「希望」「火」を表わす。分解された物は土に還り、また生まれるってことじゃないかと思った。