東京芸術劇場シアターウェスト 劇団青年座 第246回公演 『ある王妃の死』

 角が舞台の中央に来る、鳥かごのような華奢な部屋。部屋と外を仕切る建具の模様が、いかにも韓国風で、複雑かつシンプル。きれい。縁が鈍い金色に貼られ、角に向かって、非現実的に下がっており、それがなんだか間仕切りを、部屋の中の「心臓」を守る胸骨のように見せる。この芝居では赤がいろんな意味を持つ。朝鮮のシンボル「心臓」としての赤、王妃(万善香織)の女の心の赤、国家とそれへの忠誠の赤、「心臓」をうかがう暴力「血」の赤、「酔う」赤。

 ソウルの景福宮、「あ、行った行ったー」と気軽に思うけど、「1592年文禄の役で焼失」という用語解説で、うなだれてしまう。知らなかったよ。碌なことしてない、わたしたち。

 内務大臣野村(山野史人)に特命を受けた三浦悟楼(綱島郷太郎)は、朝鮮国特命全権公使として朝鮮へ赴く。任務はロシアに傾いた朝鮮王室を、日本びいきに変えさせることだ。こっからひどい。王妃を押し包んで切り殺す。しかし、日本人たちは「むごい」とも思わない。彼らは国の大義に酔っている。ほんの数十年前の「志士」の記憶が、若い者を過激な行動に駆り立てる。大義名分に祀り上げられる王妃の政敵太政君(津嘉山正種)と、陰謀に奔走する大陸浪人岡本(佐藤祐四)が暗殺の夜に向かい合うシーン、ここすばらしい。太政君は岡本を「好きだった」という。しかし演出は岡本の顔を見せない。いい芝居してるのに。何故ってその見えない顔は、暴力と熱狂の歴史を知るわたしたち(観客)自身の表情であり、各々が自分の顔を探るべきなのだった。

 綱島郷太郎、完ぺきな演技、でもさー、この芝居、「酔う」って大切じゃない?三浦悟楼は酒豪だったのかもしれないけど、酔いが「深くなる」ところが見たいです。須田祐介、声、ぱりっとしてた。「怖いです」って怖そうに言わなくていいの?