吉祥寺シアター 劇壇ガルバ『ザ・プライス』

 警官のビクター(堀文明)が昇り階段の欄干に手をついて妻エスター(高田聖子)を待っているとき、(あれ?)と思うのだ。欄干に掌をぺったりつけて体を支えない。高さの都合でビクターは指先だけを手すりに預ける。なんかちょっと変。ちょっと奇妙。その無理してる手が、なんだか、ビクターとこの芝居の総てを語っているような気がしてくる。

 ビクターと兄のウォルター(大石継太)はかつて上流階級の子弟だった。やがて彼らの父を大恐慌が見舞い、家は零落する。母は死に、ウォルターは一人家を出て医者として成功する。ビクターは父の面倒を見るため、大学をやめて警察官となった。そのせいで兄弟の間には深いわだかまりがある。実家の取り壊しが迫り、ビクターとエスターは鑑定士(道具屋)ソロモン(山崎一)を呼んで家具を一切合財売ってしまおうとする。そこへウォルターが来た。

 セットが凄くいい。透明な幕を使った芝居はいくつも観たが、いちばん深く活用されていた。「家具にかけられた透明の幕」「めくってもめくっても現れる透明な幕」、過去と記憶を見抜くことがどんなに困難で、どんなに「触れがたい」ものであるか。家具を値踏みするソロモンは、金――変わらぬ価値として一家の調度を見る。兄弟はそれを記憶として振り返り、自分たちの愛憎、代価を見定めようとする。

 「気が狂っていくうちで、一つだけいいことがある」っていう台詞変だよ。「うち」でなく「なか」でしょ。あと、感情のコントロールね。ビクター、感情が激しく上下する役だけど、役に振り回されちゃダメ、乗りこなす。ソロモン、楽しそうだけどもう少しストイックに。中盤冗長だよ。エスター、この人アル中じゃないの?ウォルターの大石継太好演。いい人でも悪い人でもない。