TOHO CINEMAS シャンテ 『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』

 「かわいい猫の絵を一生描き続けた男」「愛妻と死に別れたが一生愛していた男」と、なんか、ファンシーでラブリーな映画を想像しちゃうけど、全然違う。これ、「生きるのが下手な男がどうやって世界とコミットしたか」という剛速球映画なのだ。妻(エミリー=クレア・フォイ)は夫(ルイス=ベネディクト・カンバーバッチ)に、あなたはプリズムよというが、彼の絵、彼の描き続ける猫の絵こそが、ヴィクトリア朝の世界を分光し、驚くべき速度、驚くべき量で世上を賑わすのである。

 5人の姉妹と母を養わなければならない経済的苦境、妻の死を越えて、ルイスは猫を描く。ふつりあいとされる結婚は、きっと家族から離れたかったからでもあり、妹との不和は、シェイクスピアの妹のように埋もれるしかない妹たちの怨みがこもっているはず。ここ、もう少し足したらいいのにねー。ベネディクト・カンバーバッチは緩みなく演じ、えっすごいなと(特に妻の死を瞬時に、画面を切り替えることなく眼差しで表現するとこ)心から思うんだけど、ここがあんまり凄いんで、他のシーンが、ああそうですよねーとなった。もっとできるよね?できる。あとさ、アメリカ帰りに錯乱するシーン、ずーっと(行きはどうだったのかなあ船だけど)とちらちら考えた。

 中国人やインド人がまるでいなかったように撮られてきた時代だが、この映画はごく当たり前に彼らを存在させ、役をふる。ルイスと重要な会話を交わすダン・ライダー(アディール・アクタル)、いいんだけど、アクタルはどうやら繊細な人で、自分の台詞(いいせりふだ。倒れた何百枚ものドミノの列を、反対側に念力で倒すみたいに、映画の景色が変わる)を、泣かないように、きちんと言おうとしている緊張が、映りこんでいるよ。